『告発のとき』は、"実話を基にした映画"。つまり、映画にしたくなるほどビックリする何かが、コトの真相に含まれているわけだ。だがそのネタの良さに安心して工夫のない仕事をすれば、単に過去の事実を再現しただけの退屈な後書きが出来上がるだけ。じっさい「実話の映画化」の中には、そうした凡作、時間のムダ的失敗作が少なくない。しかし、それなら優秀な記者が書いた1ページの記事を読んだほうがはるかにマシなのだ。
04年11月、軍警察を定年退職したハンク(トミー・リー・ジョーンズ)のもとに、イラク帰還兵の息子マイク(ジョナサン・タッカー)が行方不明との知らせが入る。無断離隊は重罪であり、軍人一家としては赤っ恥もいいところ。ハンクは単身で聞き込みを開始し息子の行方を追うが、やがてマイクの他殺体が発見される。軍警察の反応の鈍さに閉口したハンクは、男社会の地元警察でシングルマザーとして孤立ぎみの刑事エミリー(シャーリーズ・セロン)の協力を得て、独自の犯人探しをはじめる。
『告発のとき』が「実話の映画化」として優れているのは、この驚くべき事件をワクワク感たっぷりのミステリードラマに味付けると同時に、強烈なメッセージをこめた超一流の政治映画に仕立てた点。「クラッシュ」(04年)がアカデミー賞で絶賛されたポール・ハギス監督の、これが第二作目というのだからその手腕には驚くほかない。単なるいち実話を元に、ここまで奥深い映画作品を作り上げた例は珍しい。