「前田有一の超映画批評」をランキング形式で紹介するサイトです。 週末の映画選びなどにご利用ください。

新着記事

1853件中 1801~1850件 を表示しています。
90点
他人を支配する面白さをサスペンス仕立てに

密室殺人やアリバイトリックに縁のない、ごく普通の人々の生活の中にも、スリリングな局面というものは存在する。そんな「何も事件がおこらない」日常で、サスペンス映画を一本作ってしまった、それが『あるスキャンダルの覚え書き』だ。

舞台はロンドン郊外にある労働者階級の中学校。頑固な性格で、毒舌と世間を斜に見る態度で孤立気味だったベテラン女教師バーバラ(ジュディ・デンチ)は、新任の若き美術教師シーバ(ケイト・ブランシェット)に目をつける。豊かな家庭の幸せな妻でもあり、高い教養と素直な性格をもつシーバとなら、友情を築けると直感したのだ。

さて、ホントは友達がほしかった孤独なバーバラは、あるときシーバの不倫現場を見つけてしまう。しかも相手は15歳の教え子、場所は学園内ときた。こりゃまた羨ましいなどと思うのは私だけで、バーバラは違った。怒りと失望、そして相手の弱みを握った優越感の間で葛藤した彼女は、後者を優先させることにする。

90点
特攻隊の真髄を完璧に表現

石原都知事の『俺は、君のためにこそ死ににいく』に加え、日系アメリカ人監督リサ・モリモトの『TOKKO-特攻-』など、最近は特攻隊をテーマにした映画の製作が相次いでいる。だが皮肉なことに、カミカゼ特攻隊とはまったく無関係の『300<スリーハンドレッド>』ほど、その歴史的意義を表現した映画はない。

紀元前480年、覇権国家ペルシア帝国はギリシャのいち都市国家スパルタを服従させるべく、使いを出した。しかし、スパルタのレオニダス王(ジェラルド・バトラー)はこれを拒否。迫りくるペルシアの大軍勢100万を、手勢わずか300で迎え撃つ覚悟を決める。

「シン・シティ」のフランク・ミラーによる劇画が原作というだけあり、一般的な歴史ものとはまったく異なる。徹底したエンタテイメント志向の作品で、歴史考証はあくまで二の次三の次。面白さのために躊躇なく史実のほうを変えている。

90点
CGの進化によるアクションシーンの迫力の違いが歴然

30代くらいの人に聞くと、ダイハード第一作目こそアクション映画の最高傑作と推す人が多い。ブルース・ウィリスの出世作となったあの88年の傑作には、確かに文句の付け所がない。今見たら私も100点を献上するだろう。

だが、この4作目も相当なものだ。コンセプトが違うので単純に比較はできないが、期待すべき点を誤らなければこれだけ面白い映画はそうない。

久々に会う愛娘ルーシー(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)に冷たくあしらわれたジョン・マクレーン刑事(ブルース・ウィリス)は、本部から近所に住む若いハッカーのマット(ジャスティン・ロング)を連行せよとの指令を受ける。つまらぬ任務に乗り気ゼロで向かったマクレーンだったが、マットの部屋に入ったとたん何者かによる激しい銃撃を受ける。

90点
近年最高のミュージカルムービー

入場者全員にサントラCDを配るわ、試写会招待状は派手にばらまくわと、宣伝GAGAの異様なまでの太っ腹ぶりが目立った本作。東京を見下ろす、映画会社中ナンバーワンの瀟洒な試写室に招待された一般のお客さんも多かろう。公開までに見たいヤツは全員みちまうんじゃないかと思うほどの勢いは、しかしそれだけ作品の出来(今回はサントラのそれも)に自信があるということだ。一般に、期待はずれの作品の試写は少なく(知名度がある場合はいっそ行わず)、知名度はないがいい作品の場合は口コミ効果を期待して多くの人に見せたくなるものだ。

1962年、ボルチモア。超ポジティブでおデブな女子高生トレーシー(ニッキー・ブロンスキー)は、大好きなテレビ番組コーニー・コリンズ・ショーのオーディションに果敢に挑戦、みごと新人ダンサーの座を勝ち取る。おまけにその風貌と明るい性格からお茶の間でも大人気に。これが面白くない旧人気ナンバーワンアイドルの金髪美少女アンバー(ブリタニー・スノウ)とその母でプロデューサーのヴェルマ(ミシェル・ファイファー)は、様々な邪魔をするが……。

ジョン・ウォーターズ監督(本作の冒頭にもマヌケなチョイ役で登場)のカルトムービーとして一部で知られていた同名作品が、トニー賞を独占したブロードウェイ・ミュージカル版を経て、再度映画に。その流れの中で元々のカルトっぽさは完全に払拭され、とにかく明るく楽しい、ストレートで前向きなミュージカルに生まれ変わった。オリジナルのいかがわしい雰囲気が好きな方には、まるで別物のような本作は受け入れにくいかもしれないが、個人的には既存のコンテンツを発掘育成、発展させた大成功例だと思っている。

90点
2007年韓国映画のベストワン

いま韓国映画界では、"日流"なんて言葉があるくらい日本の原作ものが大人気だが、彼らが鈴木由美子の少女漫画『カンナさん大成功です!』を映画化すると聞いたときは、思わずお茶を吹いた。

高見盛級のデブで、かつ不細工なカンナさん(キム・アジュン)は、大好きな歌の世界に飛び込んだものの、回ってきた仕事は人気歌手アミ(ソ・ユン)のゴーストシンガー。歌の下手なアミの代わりにレコーディングしたり、コンサートでは口パクに合わせて舞台裏で歌うのだ。そんなカンナはイケメンプロデューサー、サンジュン(チュ・ジンモ)に片思い中だったが、ある日彼が、自分の容姿に対して心無い言葉を吐いているのを思いがけず聞いてしまい、ついに自殺を決意する。

さて、カンナさんはこの後色々あって自殺を取りやめ、代わりに全身整形で169cm、48kgの超ナイスバディ美女(キム・アジュン、二役)へと変身する。そう、『カンナさん大成功です!』は、「ブスでデブな女の子が、ある日、真逆のスレンダー美人になったらどうなるか」を描く物語である。映画でも原作でも、ヒロインのカンナは正体を隠したまま(整形をカミングアウトせず)、片思いの相手へと接近する。

90点
スティーブン・キングの原作を変更、凌駕した大傑作

フランク・ダラボン監督とスティーヴン・キング原作のコンビには、「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」という傑作がある。鬼門とさえ言われるほど難しいキング作品の映画化を、ほとんど唯一成功させているのがこの監督なのだ。だから、ファンに人気の中篇『霧』をフランク・ダラボンが手がけたのはある意味必然。そしてその期待に彼は、三たび完璧にこたえた。映画『ミスト』は、必見の衝撃作である。

メイン州の田舎町。荒れ狂った台風が去った翌朝、物資の買出しに地元のスーパーマーケットに集まった住民らを、今度は視界ゼロの霧が襲う。ちょうど買い物に来ていた主人公デヴィッド(トーマス・ジェーン)と幼い息子のビリー(ネイサン・ギャンブル)は、やがて霧の中に恐ろしい"何か"がいることに気づく。

ホームセンターのような巨大な雑貨店が深い霧につつまれる様子は大迫力で、まさに映画芸術の真骨頂。

90点
16歳で妊娠した女の子はどんな行動をとるか?

『JUNO/ジュノ』はアメリカの映画業界にとって、間違いなく年度を代表する作品のひとつである。

わずか数館から始まった上映は、口コミや効果的なプロモーションで最終的には2千数百もの劇場へと拡大。製作費10億円足らずの低予算映画ながらその十数倍の興行収入をたたき出す作品なんてのは、さすがの米国においてもめったにあるものではない。

これはプロ野球で言えば、プロテストの補欠で一応取っておいた最低年収の選手が、いきなりホームラン王になるような抜群のコストパフォーマンス。アカデミー賞の司会者が本作をネタにジョークを飛ばした(「今年は殺人鬼の映画ばっかりだけど、10代の妊娠の話が入っててほっとしたよ」の"10代の妊娠の話"とは本作のこと)ことでもその注目度がよくわかる。

90点
納棺師の仕事を描いた本格作品

ヴェネチアが大カントクにリップサービスしているのを真に受けて、日本のマスコミはそちらばかり報道していたが、真に注目すべきはモントリオール世界映画祭だった。ここでグランプリを受賞した『おくりびと』こそ、まさしく世界に誇るべき日本映画の傑作である。

念願だったチェロ奏者になった途端オーケストラが解散、莫大な借金を残し失業した大悟(本木雅弘)は、夢をあきらめ故郷の山形に戻った。それでも優しいけなげな妻の美香(広末涼子)のため、少しでも高給の仕事を探していた彼は、一つの求人広告に目をとめる。"旅のお手伝い"ということで、旅行代理店か何かと思い面接に行ってみると、旅は旅でもあの世への旅。遺体を浄め最後の別れを演出する、納棺師の仕事だった。

遺族の前でご遺体の仏衣を手際よく着せ替え、同時に手早く浄めていく。張り詰めた空気と真摯な表情が、観客までも緊張させる。普段見ることのない、このような技術と仕事が存在していたことに対する驚き。強力なオープニングである。

90点
アナタは24時間後に死にますという「イキガミ」が届いたら?

漫画の映画化が最近目立つが、よもやこれほど高く評価できる作品に出会えるとは思わなかった。

現代日本に良く似た場所。この国では、「国家繁栄維持法」により安定した社会が実現している。それは全国の18から24歳の中から、1000分の1の確率で無作為に選び死んでもらう制度。通称・逝紙(イキガミ)を当人に配り、24時間後の死亡宣告を行う公務員(松田翔太)は、今日も様々な人間ドラマに立ち会うことになる。

わずかな犠牲で誰もが命の大切さを実感するこの制度により、犯罪も減り、活気あふれる社会が生まれるという設定。小学校入学時に国民へ一斉接種されるナノカプセルにより、誰かに理不尽な死が訪れる。イキガミを受け取った若者は、はたして残された24時間をどう過ごすのか。

90点
綾瀬はるか先生の就任挨拶が、個人的なオススメシーン

『おっぱいバレー』は、じつのところ中高年男性向きのオススメ品である。だが、いい年をしたオジサンが、娘のような年頃の受付嬢に「『おっぱいバレー』、大人一枚!」と、キョドった笑顔で言った日には、末代までの大恥だ。だから私は、いっそ題名を『哀愁の旅路』とかに変えたらいいと、4年ほど前から言ってきた。

というのはもちろん嘘だが、いろいろな媒体で似たようなことを言っていたところ、先日映画会社が「恥ずかしい人は、略語の『OPV』(おっぱいばれー)でも買えるようにします」と、大々的にマスコミを使って発表してくれた。おかげで、よけいにチケットを買いにくくなった。

1979年の北九州。とある中学校の弱小バレー部に、新任教師(綾瀬はるか)が顧問としてやってきた。ところがバレー部の面々は、そもそもスポーツなどやる気のないダメ生徒ばかり。誰かが拾ってきたビニ本にむらがるような、エロの事しか頭にない悪ガキだった。そんな彼らにやる気を出させようとする教師だったが、口だけは達者な中学生どもに逆に約束させられてしまう。「一勝したらおっぱいを見せること!」

90点
アカデミー作品賞は、まさにいまの時代にピッタリな一本だった

今年のアカデミー賞は、未曾有の大不況&新大統領(しかも黒人)誕生という大ニュースがあったおかげで、例年に増して予想しやすい年であった。とくに作品賞ほか計8部門受賞した『スラムドッグ$ミリオネア』については、私も100%の自信で選ばれるだろうと考えていた。

もっとも私の場合は、作品の出来不出来でこれが本命と読んだわけではなく、この映画イベントの投票システムから、ほとんど自動的にこれしかないとの結論に至ったにすぎない。アカデミー賞の本選は、6000名以上の会員によるごった煮投票。見る目のあるプロが、映画の良し悪しを選ぶわけではないから、出来ばえから予測しても意味はない。同じ理由で「あの映画のほうがよく出来ているのに、選ばれないのはおかしい」などと言うのは、的外れもいいところである。

大勢のごった煮会員が、「米映画業界振興のため(平たく言えばギョーカイが儲かるために)」もっとも適した作品に投票するのがアカデミー賞の根幹。ならば、そのときの米世論とかけ離れた作品を選ぶ可能性は低い。

90点
イーストウッドの暖かい励ましが心にしみる

いろいろなテーマやみどころが混ざり、深読みしがいもある『グラン・トリノ』だが、この超映画批評では、これを(例によって?)一風変わった視点からオススメしたい。

自動車メーカー、フォードの元工場員で朝鮮戦争の帰還兵ウォルト(クリント・イーストウッド)。頑固者で通る彼は、年寄り扱いする息子連中や、移民が増えて治安が悪化するわが町の姿に日々、悪態をつき暮らしていた。そんなある日、隣家のアジア系移民の息子タオ(ビー・ヴァン)が、同じモン族の不良メンバーにそそのかされ、ウォルトの愛車72年型グラン・トリノを盗もうとしているのを発見する。

この事件を契機に隣家とかかわりを持つようになった主人公は、やがて人間味ある彼らの暮らしぶりを知ることになる。相変わらず民族差別的な悪態をつきながらも、父性不在の一家に代わり、タオの導師的役割をも演じるようになっていく。

90点
アニメによるドキュメンタリー・エンタテイメント

アニメーションでドキュメンタリーをつくり劇場公開するなんて、ずいぶんと思い切った企画だ。そうした珍しいアイデアで出資者を説得するには、相当なクォリティの高さが必要になるはず。少なくとも、巷にはびこる原作人気頼りの安直映画とは、まったく違ったものになるだろう。そう読んだ私は真っ先に試写に出向いたが、案の定、まぎれもない力作、傑作であった。

監督は西久保瑞穂。押井守作品の高品質を支える名演出家としても知られる彼だが、今回はその押井守を「うんちく担当」として脚本に迎え、相変わらずのチームワークを見せている。そしてアニメーション制作はProduction I.G。タランティーノ監督から米映画『キル・ビル』のアニメパートを直接依頼された、日本有数の技術を誇るスタジオだ。じつに強力な布陣である。

72分間の上映時間は、「宮本武蔵はなぜ巌流島の勝利を後世語ろうとしなかったのか?」を最大の謎としてクライマックスに配置。それを解きあかす過程では、幾多の小さな謎解きがなされ、テンポがよい。見せ方も解説の手法も、とてもわかりやすい。

90点
マイケル・ベイらしさ全開のすてきなトンデモ映画

『トランスフォーマー/リベンジ』は、いかにもマイケル・ベイ監督らしい、華やかで楽しくて、かつゴーマンな超大作であった。

激しい戦いを生き残ったリーダーのオプティマス率いる金属生命体・オートボット(日本版でいうサイバトロン)軍団は、いまや人類と協力して、悪の軍団ディセプティコン(同:デストロン)の残党を狩っていた。ところがあるとき、その一体が新たな大戦争を匂わす不気味な台詞を残して死ぬ。そして今回もカギを握るのは、オールスパークのかけらを持つサム(シャイア・ラブーフ)とそのガールフレンド、ミカエラ(ミーガン・フォックス)だった。

都内のTHX劇場で先行上映に行ってきたが、いやはや、これは面白いものを見せていただいた。断続的に続くお祭りのような見せ場が150分間もたっぷり続く、「量が少なくて文句を言われるのが怖い」アメリカの料理店特有のてんこもり料理のような、ワイルドな娯楽作品であった。

90点
2009年夏のイチオシ

今年2009年の夏シーズン、忙しい中、たった1本だけ映画を見られるとするなら、私は迷わず『アマルフィ 女神の報酬』を選ぶ。夏休みらしいスケールの大きな大作であること、邦画の枠内でなく、世界標準からみても優れたサスペンス映画であることが理由だ。

と同時に、このような意欲作がコケることになったら、もはやマジメに日本でエンタテイメントをやろうという人はいなくなってしまうのでは、と危惧する。人気テレビドラマをチョチョイと2時間に引き伸ばし、洗脳のごとき繰り返し宣伝で純情な視聴者を映画館に集め、1800円を搾り取るビジネスモデルが通用するようでは、あまりにクリエイターたちが可哀相だ。

クリスマス直前のローマに派遣された外交官・黒田(織田裕二)は、偶然にもある旅行者(天海祐希)の娘が誘拐される事件に遭遇する。とっさの機転で犯人からの電話を黒田が処理したことにより、彼も巻き込まれ、事件解決のため奔走することに。だが外交官には捜査権がなく、徐々に黒田は孤立していく。

90点
今年ナンバーワンのショッキング映画

ナチスものというのは、私を含め多くの日本人が、ほとんど興味をもてないテーマだろうと思う。ユダヤ人優位のアメリカ映画界では永遠の定番テーマだが、それに私たちが付き合う必要はまったくない。だから本作に対しても、相当冷めた目で見始めたことを最初にお伝えしておく。

第二次大戦下のベルリン、8歳の少年ブルーノ(エイサ・バターフィールド)の父親はナチス将校。その転属に伴う引越し先は、片田舎の森の中だった。そこにはフェンスに囲まれた「農場」があり、大勢の大人が働いている。ある日、ブルーノはこっそり近づいた塀の向こうに、同じくらいの歳の子供を発見する。顔色が悪く、がりがりにやせた少年はシュムエル(ジャック・スキャンロン)と名乗った。塀の中の他の大人たちと同じ「縞模様のパジャマ」を着ている彼との奇妙な交流が、その日を境に始まった。

これを見終わったとき、私は大きな認識違いをしていたことに気づかされた。これは古びた「ナチス映画」などではなかった。きわめて普遍的なテーマを持つ、現代的な映画であった。ショックを受けたという意味では、今年始まって以来ダントツのナンバーワンといっても過言ではない。

90点
ぜひ小さい息子さんとご一緒に

手塚治虫の代表作で、日本アニメの元祖的存在「鉄腕アトム」は、意外だがこれが初の劇場版となる。製作したのは香港発のアニメ制作会社「イマジスタジオ」。そこにハリウッドスターが声を当て、米国では300スクリーン越えの大規模公開、その他50カ国以上で上映が予定されている。日本原産のコンテンツとしては、大本命といってよい話題作である。

未来都市メトロシティの科学省長官で天才的科学者のテンマ博士(声:ニコラス・ケイジ、役所広司)は、幼い息子のDNA情報を埋め込んだ最新鋭ロボット、トビー(声:フレディ・ハイモア、上戸彩)を作り上げるが……。

オリジナルの66年版アニメーションはもちろん、80年のリメイク版を楽しんだ世代でさえ、今はとっくに"父親"になっていることだろう。そうした事情を受けてかこの映画版は「父と子の関係、息子への愛」に焦点を当てた、感動ドラマとなっている。

90点
全日本人がみるべき作品

『海角七号/君想う、国境の南』という映画を考えるときもっとも重要なポイントは、「この映画が台湾で爆発的にヒットした」(同国映画としては史上一位)という事実である。

ミュージシャンの夢破れ、故郷に戻ってきた青年(ファン・イーチェン)は、郵便配達のバイト中、あて先人不明郵便を発見する。それは日本統治時代の住所表記あてに送られた60年前の郵便だった。そんなある日、地元で行われる日本人歌手のコンサートの前座を頼まれた彼は、その仕事の中で知り合った日本人女性(田中千絵)にその手紙を見せる機会を得る。そして、その手紙に大切な内容が書かれていることを知る。

半ニート若者を主人公にしたユーモラスな下町人情ドラマ風に始まる本作は、まともなギタリストさえいない田舎町の急造バンドのどたばた騒動でまずは楽しませる。

90点
時代にマッチしている上、脚本の骨格がきわめて頑健

たぶんこの映画についてほとんどの方は、こんな風に考えているだろう。

「え、日本映画? 安っぽそう」「え、フジテレビの映画? 軽そう」「え、テレビドラマの映画化? 映画だけ見てもわかんなそう」「とにかく、つまんなそう」

その気持ちはわからぬでもないが、なんと本作に限ってはすべてよい意味で裏切られた。こういうことはめったにあるものではない。

90点
≪もはやアメリカ人の未来は真っ暗だと証明した≫

『4デイズ』も震災延期組のひとつで、私がこれを見たのは3月初旬の震災直前だった。そんな時期的なイメージに加えて作品としてのインパクトが甚大で、個人的には延期組の中ではナンバーワン作品と思っている。

米国内3か所に自作の核爆弾を仕掛けたテロリスト(マイケル・シーン)が逮捕された。タイムリミットが迫る中、当局は拷問のプロフェッショナル=通称"H"(サミュエル・L・ジャクソン)を呼び寄せ、密室内で手段を問わぬ尋問をすることにした。同席したFBI捜査官(キャリー=アン・モス)は法を守る立場からこの人権無視のやり方に抗議するが、かといって代案はない。とどまることを知らぬ残虐な"H"のやり方を制御するのが精いっぱいであった。だが、そもそもなぜこれほど有能な犯人が、たやすく逮捕されたのだろうか……。

スケールは大きいが登場人物は主に3人。舞台はアメリカ政府御用達の拷問部屋。スペクタクルもあるにはあるが、基本的には低予算のサスペンスドラマだ。しかしチープさは全く感じさせない。容赦ない残酷性とその描写により、予定調和なハッピーエンド以外もありうる空気を漂わせており、先が読めない怖さを存分に味わえる。

90点
資本主義の諸問題を皮肉る秀作

日本でSF映画というと子供向けのイメージがあるが、海外には大人の鑑賞に堪えるものがたくさんある。「TIME/タイム」はその最たるもので、その出来はすこぶる良い。おそらくあらすじを聞いただけでほとんどの人が見てみたい、となるのではないだろうか。私の周りでも、普段はこうしたジャンルに興味を示さない編集者が、ストーリーを説明した途端見てみたいと即答したり、じっさい普段はこの手のジャンルを取り扱わない媒体で紹介したりもしている。

寿命をコントロールできるようになった近未来。人類は遺伝子操作により25歳で成長がストップし、そこから等しく1年間の寿命が与えられるようになっている。その結果、通貨としての金銭は無くなり、代わりに人々は「余命」をやり取りして経済活動を行っていた。スラム地区に住むウィル(ジャスティン・ティンバーレイク)は、目覚めると常に余命残り24時間を切っているほどの「貧困者=時間無し」だが、困っている人を見ると惜しげなく余命を分け与える優しい男。そんな彼が、あるとき自殺志願の大富豪から100年単位の余命を譲り受けた事から、運命の歯車が大きく変わり始める。

世界感や設定を聞いただけで楽しそうと思える作品は、間違いなくいい企画である。ただし、そうした企画に十分な予算がつき、一流の人員を割くことができる国はそう多くはない。アメリカの映画業界は、そうした真っ当なことをやっているからこそ、世界一でいられるのである。「TIME/タイム」のような映画を見るたびにそう思う。

90点
芦田愛菜の存在意義だけが不明だが

この2作目の脚本も前作同様、プロット自体をハリウッドに売ることもできそうなほどに完成度が高い。登場人物を入れ替えればライアーゲームのタイトルを外しても通用する点も前作譲り。それどころか緻密に計算された脚本のうまみは、前作を上回る部分さえある。具体的には椅子取りゲームという、原作ファンにはおなじみのネタを採用していながらも、あえて2012年に公開するべき理由付けがなされている点。さらに普遍的でありながら、じつに日本的な結末を用意している点も心憎い。

ファイナルステージから2年、秋山(松田翔太)は大学で心理学を教えていた。そこに教え子の篠宮(多部未華子)から、札束とともに不気味なゲームの招待状が来た件で相談を受ける。終わったはずのライアーゲーム、いったい誰が再開したのか。秋山は再び弱き者を守るため、ゲームに参加する羽目になるのだった。

今回採用されるゲームは椅子取りゲーム。多少複雑な決め事はあるが、たかが椅子取りゲームで、よくぞここまで高度な騙しあいと戦略を考えたものだと、脚本家及び原作者の脳みそにはただただ感服する。

90点
独創性がある

世間一般には疑問符が付くようなタイプの人間でも意外とモテたりする。気が多い女の子とか、金遣いの荒い男とか、第三者からみればクズのような性格でも「普通」に飽いてる者にとっては適度な刺激になるためだ。適材適所、捨てる神あれば拾う神ありだ。

「キャビン」は、どこからみても異形な映画。変化球のみで構成されたトンデモ作だが、だからこそ「普通」に飽きてる人には最高の刺激となる。その魅力は、あらゆるホラー映画を見てきた人でも、絶対に先読みできないハチャメチャな展開。しかしナンセンス系ではなく破綻なく世界観をまとめている「定石外し系」の傑作である。

森の中の小屋にやってきたデイナ(クリステン・コノリー)たち大学生の男女5人。人里離れたこの場所で、胸躍る休日を過ごす予定だったが、この小屋は何かがおかしい。隣の部屋を覗けるマジックミラーがあったり、古い地下室があったり。やがて彼らは、不安を抱えながらも初めての夜を迎える。

90点
すべてを圧倒する昭和天皇

参院選で自民党が圧勝し、改憲論議さえ巻き起こっている昨今。GHQの影響濃い現憲法を改正することは、米国による支配からのっ、卒業ぉ……。というわけだが、そんな懐かしのヒットソングのように上手くいくはずがないとは思うものの、それにしても終戦直後のGHQはいったい占領地の日本で何をしていたのか。とくに天皇に対してどのような影響力を発揮したのか、そこに特化して描いた「終戦のエンペラー」は、なかなかユニークな戦争映画といえる。

1945年8月、占領地である日本にやってきたダグラス・マッカーサー(トミー・リー・ジョーンズ)は部下で知日派のフェラーズ准将(マシュー・フォックス)に特命を与えた。それは10日間以内に、日本国内の戦争責任者が誰なのか、具体的には天皇にその責任があるのかないのかを調査し結論を出せというものだった。フェラーズはかつての恋人アヤ(初音映莉子)の行方も調べられる好機と引き受けたものの、日本の複雑な権力構造と、宗教的ともいえる天皇への国民感情への理解の困難から、調査は難航を極めるのだった。

この映画のキモはクライマックスのマッカーサーと天皇の対面シーンにある。それまでは日本の高官やら何やらの、言い訳じみた御説のハギレを並べるばかりで、正直退屈すら感じる。天皇に責任があるという人たちの言葉は何一つ心に響かないし、逆に天皇擁護派のそれもしかり。意外性のある史実の発掘もなく、このまま映画は終わるのかと思わせた。

90点
全部ガチならとんでもない映画

園子温監督の映画に「地獄でなぜ悪い」(13年)というのがある。本物のやくざの抗争と殺し合いを、映画の見せ場として撮影する映画オタクの話だ。もちろんフィクションのコメディー映画だが、斬新な作風が好評を得た。

ところが世の中は広い。アメリカには、なんとそれを地で行く映画監督がいた。

1965年、9月30日事件と呼ばれる大虐殺がインドネシアで起きた。ときのスカルノ政権に対するクーデター未遂のどさくさの中、大勢の共産主義者らが殺されたこの事件。その実行犯を取材したジョシュア・オッペンハイマー監督は、自分たちを革命の英雄と思い込んでいる彼らに対し、それなら自らのしたことを再現し、映画に記録してはどうかと提案する。

90点
老監督の凄みをみた

最近のウディアレンの映画というと、皮肉の効いた大人向けラブコメまたは器用なミステリ、といったイメージが強い。毎年1本ずつ発表し続けているが、たしかに上手いとはおもうが正直、ぬるめの作品続きで欲求不満なファンも多かったのではないか。

ニューヨークで富豪の夫と別れ、サンフランシスコの妹の家に居候にきたジャスミン(ケイト・ブランシェット)。だが彼女は異様なプライドの高さから現実を見ることができず、質素な暮らしや就職活動に耐えられない。再び玉の輿に乗り、セレブ生活に戻れると信じて疑わないジャスミンがつく「嘘」は、次第にエスカレートして……。

さて、そんなアレン作品だがこの「ブルージャスミン」は違った。こんなに強烈な才気が78歳のアレンに残されていたとは、うれしい驚きである。本作は、近年のウディ・アレンコメディに欲求不満だった人、そもそもアレン映画とはそういうものだと思いこんでいる人に是非見てほしい、切れ味鋭い人間ドラマの傑作である。

95点
スリリングなサバイバルドラマ

『ホテル・ルワンダ』は、奇妙な経緯をたどった映画作品だ。もともと作品の評価は高かったが、オスカーレースに絡んだため買い付け価格が上昇、日本における人気スターなど皆無の地味な社会派作品だったため、採算が取れないと判断され、日本公開はこれまで実現しなかった。

ところが、インターネットを中心にした公開嘆願の署名運動が行われ、ようやく公開が決まったというわけである。署名規模は数千名と、絶対数自体は少ないものだが、観てもいない映画の公開を求める人がそれだけいるというのは、ある意味すごい事である。そして、この作品が、その人たちの期待を裏切ることは、まずないだろう。良い映画である。

1994年、アフリカのルワンダ。主人公のポール(ドン・チードル)は、この国でもトップクラスのホテルの支配人だ。彼は、妻や子供たちを愛する心やさしい家庭人であり、優秀なホテルマンでもある。奇麗事だけではすまない現実を、しっかりと見据えている彼は、政府軍、反乱軍双方の重要人物に付け届けも欠かさない。

95点
プロの職人芸に圧倒される、完璧な出来のアクション映画

今週、『トム・ヤム・クン!』があって本当によかったと思う。同日公開だが、同じアクション映画でも『デュエリスト』とはまさに月とすっぽん。アチラでガッカリした人も、これを見れば癒されるはず。もしくは、現在のアクション映画界における最高と最低を、同時に楽しむという、マニアックなやり方もありかもしれない。

主人公は王族に献上する象を育てながら、山で幸せに暮らしている青年。これを『マッハ!!!!!!!!』で全世界を驚愕させた、次世代のアクションスター、トニー・ジャーが演じる。やがて、いよいよ献上する日がやってくるが、手塩にかけて育てた象は、悪者たちの手により騙し取られてしまう。

かくして怒りの追跡劇が始まるというわけだ。監督は『マッハ!!!!!!!!』のプラッチャヤー・ピンゲーオ。前作の儲けをつぎ込んだというだけあって、物凄いアクション映画になっている。やはり今、タイのアクション映画は面白い。

95点
空腹時に見て吐きそうになったほど怖い映画だが、きっと満腹時でもヤバいだろう

『ホステル』は久々に味わったすごい映画だ。単純に筋書きが面白いだけでなく、その演出の巧さにも舌を巻く、すばらしい映画作品であった。

欧州をバックパッカーとして貧乏旅行している米国人の大学生コンビは、途中で陽気なアイスランド人と知り合い、3人でオンナ漁りのバカ旅行を楽しんでいた。あるとき彼らは、スロバキアの田舎町に、目くるめくような快楽を得られるホステル(若者向きの安宿)があるという噂を聞く。麻薬とオンナには目のない彼らが早速訪れてみると、そこは予想を越えたキモチイイ異文化があった。

なんとも不気味な、東欧独特の雰囲気の漂うそのホステルにつくと、あいにく相部屋だといわれる。意気消沈して3人が部屋に向かうと、なんとそこには着替え中の巨乳ギャルがおり、ルームメイトだと告げる。しかもこれから混浴温泉に向かうので、一緒にいかが、などと言う。

95点
ドロドロした社会問題を、最高に美しい子供向けアニメに仕上げた恐るべき映画

全国公開される大作や、単館系の話題作をちょくちょく見ている、といった程度の映画好きの人に「オススメ教えて」といわれると、私は98年製作のフランスのアニメーション『キリクと魔女』あたりを教えることにしている。そして、たいていの相手から好評を得ている。

『キリクと魔女』は日本でも03年に公開され、このサイトでも絶賛した記憶があるが、『アズールとアスマール』はそれと同じミッシェル・オスロ監督の新作。おのずと期待は高まる。

舞台はとあるヨーロッパの国から始まる。そこで暮らす金持ち領主の子アズール(声:シリル・ムラリ)と、そのアラブ人の乳母ジェナヌ(声:ヒアム・アッバス)。そしてジェナヌの実の子アスマール(声:カリム・ムリバ)。ジェナヌのわけ隔てない愛情のもと、二人の子供は身分や人種を超えた兄弟愛を育んでいた。しかしアズールの父はジェナヌとアスマールを追い出し、二人は海の向こうの故郷の国へ帰ることになった。

95点
凝った構成と完璧な脚本の政治サスペンス

冒頭、いきなりアメリカ大統領がスペインの大群衆の前で狙撃される。ほぼ同時に大爆発も起こり、集まった人々はパニックに。全力ダッシュで始まり、ペースを落とすことなくそのまま90分間駆け抜ける、大興奮サスペンスアクションの登場だ。

テロ撲滅の国際サミットのため訪れたスペインのサラマンカの広場で、米大統領が何者かに狙撃される。大混乱の中、ベテランシークレットサービス(デニス・クエイド)は居合わせた観光客(フォレスト・ウィッテカー)のビデオカメラやテレビ局の中継車をチェック、そこに驚愕の真実が写っていることに気づき、追跡を開始する。

これぞまさに映画、凝りに凝った構成に感心しきり。

95点
80億円以上の予算をかけたコメディ

アメリカではコメディジャンルが人気があると、ここでは何度も書いている。人気があるということは、そのぶん金をかけられるということ。だからあの国では、『ゲット スマート』のようなお笑い映画一本に、なんと80億円以上もつぎ込むという無茶な現象がよく見受けられる。

極秘諜報機関"コントロール"の情報分析官マックス(スティーヴ・カレル)は、優れた分析能力があだとなり、長年の夢である現場の諜報員になれずにいた。ところが本部が犯罪組織"カオス"に襲撃され、全諜報員の顔と名がバレてしまう。そこで身元を知られていないマックスが急遽昇格となり、偶然整形手術直後だったベテラン女エージェント99(アン・ハサウェイ)と組み、カオスに対峙することになった。

大人気だった『007』のパロディとして60年代に作られたテレビシリーズ『それ行けスマート』の映画化。私もオリジナルは見たことがないが、ベテラン評論家のセンセイによると、当時の小ネタがちりばめられ、大変面白かったということだ。キャストはもちろん一新されたが、当時を知る年代の人も、懐かしい思いを味わえるのではないだろうか。

95点
スピルバーグ10年の構想を映画化

『イーグル・アイ』を見終わると、ぐったりと疲れる。アドレナリンだかエンドルフィンだか知らないが、脳内が過剰に活性化されたせいで、この映像体験から開放されたとたん、消費カロリーのあまりの多さに気づく。

コピー店のしがない店員ジェリー(シャイア・ラブーフ )は、突然理解を超えた出来事に巻き込まれる。覚えのない大量の武器や預金。大混乱のさなか、突然かかってきた携帯電話の主は、「30秒後にそこから逃げなさい」と忠告してきた。

ここから怒涛の巻き込まれ型サスペンスが開始される。

95点
全世界が突然失明!?

ここ数ヶ月みた映画の中で、私が最も感動したのはこの『ブラインドネス』であった。カンヌ映画祭で、景気付けのオープニング上映のみならず、本命コンペ部門にも出品されたというだけのことはある。

街のど真ん中で、日本人男性(伊勢谷友介)が運転中の車を急停止させた。彼は、突如として失明してしまったのだ。診断した医師が首をひねる中、世界各地で同様の症状に見舞われる人が続出。この奇病は瞬く間に感染し、政府は患者の緊急強制隔離を敢行する。医師の夫(マーク・ラファロ)が失明した妻(ジュリアン・ムーア)は、夫を支えるため自らも感染したふりをして隔離施設に入所するが、そこはほとんど管理の手が及ばぬ、劣悪な環境だった。

世界中が失明し、人類文明が崩壊していく壮大なスケールのパニック映画。……だが、作品の本質はそこではなく、この寓話的設定が静かに内包するテーマ性の高さにある。

95点
アメリカ人のしぶとさを感じさせるアニメーション作品

ベン・スティラーやクリス・ロック、そしてジェイダ・ピンケット=スミス母子(ウィル・スミスとの娘ウィロウ・スミス)など、豪華な声優陣をそろえた話題性で引っ張り、米市場で『マダガスカル2』は記録的なヒットとなった。ところがじっさい見てみると、これが単に宣伝や話題性だけで売れたのではないことがはっきりとわかる。『マダガスカル2』は、前作はもちろん、近年のアニメーション作品の中でも群を抜く傑作である。

ライオンのアレックス(声:ベン・スティラー/玉木宏)ら、NY動物園の元人気者4頭は、飛行機を修理してマダガスカル島から脱出を図った。ところがしょせん機長はペンギン。米大陸まで届くはずもなく、機体はアフリカ本土へ不時着してしまう。

巨大な火山の遠景から、ライオンの父子の手元へとカメラが下りてくる。遠くから近くへ。深い深い奥行きを感じさせるカメラワークで、のっけから「これは!」と思わせる。そこから、物凄いスピードで前作のおさらいをした後、さっさと本編に入る。前作未見者も、半ば強引に物語に引き込む、アメリカ映画らしい親切丁寧なオープニングだ。

95点
≪真っ黒な爽快感≫

後世になれば、この映画は松たか子の代表作にして最高傑作と呼ばれることになるかもしれない。現時点(2010年6月)における、私が見た中で本年度ベストといえるこの映画を、本サイトで公開前に紹介できなかった事をたいへん申し訳なく思う。(Web以外の原稿等の締切が、70作品分以上集中する緊急事態でした、すみません)

ある中学校の教師(松たか子)が、終業式のホームルームで不気味な告白を始める。数ヶ月前、自分の幼い娘(芦田愛菜)が校内のプールで溺死した事故は、じつはこのクラスの中の2名による殺人だったというのだ。そんな衝撃の事実を知らされながらも、まるで深刻にうけとめず、好き勝手に騒ぐばかりのこの崩壊学級の少年少女たち。だが教師は少しもひるむ事無く、次に告げた「ある事実」により、全員を凍りつかせてしまう。

開始早々、松たか子のただ事ではない演技に引き込まれる。背中を氷のハンマーでたたかれ、脊髄を麻痺させられるような冷たい衝撃を、観客は(劇中のクラスメートと同時に)味わうことになる。もとよりこの女優の底力を日本最高ランクと認識していた私でさえ、ここまで出来るのかと驚かされた。

95点
≪おもちゃを捨てられなくなるシリーズ3≫

ピクサー製作のアニメーションは、頭ひとつ以上抜き出た脚本力により、もはや10割打者といってもいいほどの傑作率を誇る。その作品群は原作ものではないオリジナルにこだわった企画ばかりだが、中でも「トイ・ストーリー」は記念すべき第一作。社のアイデンティティーといってもいい、スタッフ全員の夢を託した渾身の一本だったわけだ。

この大ヒットからピクサーの快進撃は始まったのだが、その3作目となる本作は、そんなわけで安直な「手堅い続編企画」のはずはない。この2010年に、ピクサーが「トイ・ストーリー3」を送り出した事には、必然ともいうべき理由が必ずある。それを念頭に置きつつこの映画を見終わったとき、私はその予測が正しかったことを感じて深く感動するとともに、このスタジオが当分、名実ともに世界一の座を譲ることがないことを確信した。

かつて、どの少年よりも自分たちおもちゃを愛してくれたアンディ(声:ジョン・モリス)も17歳。一番のお気に入りだったウッディ(声:トム・ハンクス)は、彼がもう自分を手にとってくれなくなった事や、もしかしたら二度と遊んでくれないかもしれない予感を胸に、それでもアンディの事を心から愛していた。かつては最新のトイだったバズ(声:ティム・アレン)たちとは今でも元気にやりとりするが、そんな日々にもついに終止符が打たれるときが来た。大学入学とともにアンディが引っ越すことが決まり、古いおもちゃを処分する事になったのだ。

95点
≪天才の誕生過程≫

菅直人首相が浜岡原子力発電所の即時停止を命じたという。電力不足が起きるぞと原子力村民たちが早くも国民を脅し始めているようだが、もとより浜岡原発は点検にかこつけて年間200日とか300日も休んでいるぐうたら原子炉の集まりである。いまさら残る2つを止めたところで電力など不足するはずもない。

この決断には自民党議員の一部が猛反発しているが、これでは首相の思うつぼ。脚本家的な視点から見れば、「自民党イコール原発利権」の印象が国民の間で強まれば、菅政権は労せずして「正義の味方」の役を勝ち取れる。

さらにいうなら、自民との対決色が盛り上がってくれば、菅下ろしの大連立政局をたくらむ党内勢力を黙らせる効果も期待できる。「ワルと手を組む奴は裏切り者」なのである。政治的には一石二鳥の合わせ技で、この一件だけ見ても菅首相はなかなかしぶとい。

95点
≪ラスト1秒まで楽しめる日本とローマの友好映画≫

バブル時代は世界中で日本人ほどマナーの悪い国民はいないなどといわれたものだが、最近ではその座を中国人に明け渡し、日本人はむしろ公衆マナーが良いなどといわれている。とくに入浴の場でそれは顕著である。下町の銭湯などには代々受け継がれた暗黙のルールのようなものがあり、はしゃいで場を乱す者は一人もいない。

もっとも最近の若者には、下半身丸出しでお守りを売るラグビー部員などもいるようなので例外はあるが、往々にして日本人は裸のマナーが良い。

そんな、普段は隠れている日本の良さを実感できる映画が「テルマエ・ロマエ」だ。今年のゴールデンウィーク最大の話題作にして、私が最高傑作と考えるこのコメディーは、日本文化を大好きな人はもちろん、最近の政治や行政のていたらくで日本に愛想をつかし始めた人にも見てほしい、愛国的娯楽映画である。

95点
ポール・ウォーカー最高傑作

2013年11月、友人のポルシェに同乗していたポール・ウォーカーは、事故後の炎上により40歳の生涯を閉じた。「ハリケーンアワー」はそんな悲運な彼の遺作のひとつである。厳密には撮影中だった「ワイルドスピード」最新作が、代役を立てて完成させるとのことなのでそちらなのだろうが、全編でずっぱりの一人芝居に近い作品であることを考えたら、ファンならこいつを見逃す手はないだろう。

巨大台風カトリーナの直撃を受けたニューオーリンズの病院に、ノーラン・ヘイズ(ポール・ウォーカー)は妊娠中の妻を連れやってきた。早産の子供は助かったが、妻はそのまま帰らぬ人となった。だが生まれた子供も呼吸器の中にいなければ危ない状況。しかし台風の被害は拡大する一方で、病院内はノーラン父娘を残してみな避難してしまう。呼吸器とその中の娘を運べない以上、彼はここから移動はできない。はたして彼らの運命はどうなるのだろうか。

あまりにありえない設定を成立させるために、あえてカトリーナという実在の台風設定にせざるをえなかったということだろうが、これはうまい。あれほどの混乱の中ならば……との思いにより、これほどのムチャ設定を一瞬で納得させてしまう。この段階でモタモタしていると、ワンシチュエーションスリラーというものは一気に瞬発力を失う。

96点
今度は世の中を変えられるか?

マイケル・ムーア監督の最新ドキュメンタリー「シッコ」は、期待を上回る物凄い映画であった。

左翼活動家兼ドキュメンタリー作家として社会問題を追い続ける彼の今回のテーマは「アメリカの健康保険制度」。先進国の中で最悪といわれる、悪名高いかの国の制度について、まずはなぜひどいのか、実例を示すところから映画は始まる。

成熟した国民皆保険制度の恩恵を受けている日本人としては、到底信じられないような悲劇が何例も示され、「うわさには聞いていたがここまでひどいのか……」とショックを受ける。

97点
ほかのどんな巨匠にも作れない映画を目指した点が立派だ

この職業をやっていると、毎日各社から膨大な数の試写状が届く。ためしに今手元にあるのを数えてみたら40枚以上あった。非常に残念だが、物理的な時間不足によりそのすべてを見ることは出来ない。やむなくスケジュールに合う中から、何か気になる作品を選ぶことになる。

私が『明日、君がいない』の試写会に行こうと思い立った最大の理由は、この映画の監督ムラーリ・K・タルリは、なんとこの映画を19歳のときに作り始めたという一点にあった。しかも、カンヌ国際映画祭で好評だったという。アカデミー賞よりカンヌの評価に共感する事が多い私としては、どうしてもこの作品を見ておきたかった。

舞台は現代のとある高校。ちなみに本作の原題は「2:37」というもので、これはこの時刻に何かが起こるという意味。そしてそれは、どうやらクラスの誰かが校内で自殺するのだと、冒頭にわかる。そこで一気に時間は戻り、その時刻までの1日をカメラは淡々と追っていくのだ。

97点
歴代バットマン映画最高成績にして最高傑作

『ダークナイト』は、米国ではいまや興行新記録の投売り大セール状態である。その勢いたるや、永遠に破れないと言われた「タイタニック」の不沈神話にも迫る勢いだ。世界の映画史上、間違いなく記録に残る作品となったこの特大話題作は、中身のほうも文句なしの大傑作である。

ゴッサムシティに前代未聞の冷酷な犯罪者ジョーカー(ヒース・レジャー)が現れた。バットマン(クリスチャン・ベイル)とその理解者、ゴードン警部補(ゲイリー・オールドマン)をあざ笑うかのように悪行を繰り返す彼の前に、新任の地方検事ハーベイ・デント(アーロン・エッカート)が立ちふさがる。デントのゆるぎない正義の心と行動力を知ったバットマンは、自らの役目が終わったことを悟り、彼に街の治安をゆだねる決意をする。

スーパーマンやスパイダーマンと違い、バットマンは超能力を持たない。彼はブルース・ウェインというただの人間、資産家で、特注の防御服や装甲車の力で犯罪者をやっつける。誰にも頼まれていないのに、彼は一人自警団として、しょっちゅう大怪我をしながら街の安全を守っている。世界一な親切なおかねもちなのである。

97点
≪文句のつけようのない横綱相撲≫

『ヒックとドラゴン』は、いくらほめてもたりないほどの傑作であるが、それは様々な要素が高いレベルで融合された、すなわち完成度の高さによるもの。何かが突出して良いのではなく、すべてがハイクオリティ。まさに死角のない横綱。事件前の朝青龍みたいなものである。

バイキングのリーダーの息子ヒック(声:ジェイ・バルシェル)は、偉大な父とは正反対の貧弱で気弱な少年。大切な家畜を襲う害獣のドラゴン族を狩らねば男とはみなされないこの村では、いつも半人前扱いされている。それが最大のコンプレックスだったヒックは、あるとき大怪我で飛べない最強のドラゴンを発見する。だがやさしいヒックはどうしても止めを刺すことができず、世話をすることによって友情を育んでいくのだった。

ドラゴンとバイキングの終わりなき戦いが続くファンタジー世界観。両者の戦いに終止符を打つのは誰なのか。

97点
≪おバカな内容だが、そう簡単には作れない高い完成度≫

『ナイト&デイ』は、今年のアクション映画の中では突出したできばえで、このジャンルでこの作品を上回るものは、残り3か月もう出てこないだろう。

ボストンへの帰路、ジューン(キャメロン・ディアス)は空港でぶつかったハンサムな男性(トム・クルーズ)に心奪われる。機内でも偶然近くに座った彼と、なんとなくいいムードになった彼女は化粧室で心を落ち着かせる。ところがトイレから戻った時、機内はとんでもないことになっていた。

上記あらすじはほんのさわりだが、このシークエンスの面白さは簡単には語りつくせぬほどで、ぜひとも映画館で堪能いただきたい。キャメロン・ディアスの名コメディエンヌぶり、トム・クルーズの切れ味鋭い動き、それらがアメリカ映画らしいハイテンポな編集で描かれ、まれにみる爆笑&迫力の見せ場となっている。やってる事はとんでもなくおバカだが、それを本気のアクションと最新かつ超一流の演出で見せる。この映画のコンセプトがここに凝縮されている。

97点
≪超絶技巧の傑作、年間ベストワン候補の筆頭≫

かつてイギリスにドリアン・イエーツというボディビルチャンピオンがいた。驚異的なバルクと低頻度高強度の斬新なトレーニング理論を実践したことで、時代を変えたチャンピオンとして今でも大きな尊敬を受ける人物だ。

彼がユニークなのは、ボディビルを始めようと思った時、始める前にまず過去〜現在までのチャンピオンたちの映像やトレーニングメニュー、栄養学などを一通り学んだという点だ。最高のアーティストたちを徹底的に研究して、それらを倒すための具体的計画、グランドデザインをしたあとで入門したのである。ひ弱な体の初心者が、いきなりそんな大志を抱くこと自体が非凡の極みである。

一方、ある歌手は同時代の他のアーティストの作品をなるべく聞かないようにしているという。無意識のうちに影響され、自分の軸がぶれるのを恐れるためだそうだ。感受性が豊かすぎる場合、これも一理あるやり方だ。

97点
10年に1本級のお祭り

2005年から始まった、ハリウッドの大プロジェクト「マーベル・シネマティック・ユニバース」の集大成「アベンジャーズ」は、深読み派、能天気派どちらにとっても紛れもない大傑作であった。

国際平和維持組織シールドが保管する四次元キューブが、邪神ロキ(トム・ヒドルストン)に奪われた。シールド長官ニック(サミュエル・L・ジャクソン)は、この緊急事態にアイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr)を始めとするスーパーヒーローのオールスターチーム「アベンジャーズ」を結集させる

が、集まったヒーローたちはまるで協調性がなく、先が思いやられる状況であった。

98点
すべての男が見るべき大傑作

2006年の総評でもちらと触れたが、昨年私が見た数百本の映画の中で、もっとも面白かった映画がこれである。痴漢冤罪という、誰にでも実感できる切り口で日本の刑事裁判の抱える問題点を描いた社会派映画。しかしながら堅苦しさはゼロで、娯楽度満点。先が気になる度がきわめて高いストーリーと、へぇ連発のディテール。どこをとっても完璧に限りなく近い、まさしく年度を代表する傑作といえる。

主人公のさえないフリーター(加瀬亮)は、満員電車から降りたとたん女子中学生に手首をつかまれた。駅員室に連れて行かれた彼は、覚えのない痴漢を頑強に否定。すると警察がやってきて留置され、そのまま裁判を闘うことになるのだった。

この映画の上映時間は147分。一見長大に思えるが体感時間はその半分程度、まさに尿意を忘れる一本だ。『Shall We ダンス?』(96年、日)以来の新作となる周防正行監督は、これを作るのに2年間に及ぶ徹底取材を行ったという。ぎっしりと雑学および強い問題提起がつまった2時間半からは、その意欲と成果を十二分に感じられる。とくに、(元ねたとなった本はあるが)明確な原作ものでない映画で、ここまで細部を詳細に描いた作品は近年見たことがない。

98点
やや難解だが、おそるべき大傑作

『ウォッチメン』と『ダークナイト』は、まるでライバルのような関係だ。原作のグラフィックノベルは同時代に発行され、実写映画もまたしかり。そしてその出来栄えも両者まったく譲らず、である。

いわゆるアメコミ(アメリカンコミックス)の中には、上記二つのように完全に大人向けの、ほとんど文学と呼ぶべきものがある。よく、単純明快な勧善懲悪アクションもの、ノーテンキなエンタテイメントをアメコミ映画に求める人が(とくにアメコミに詳しくない日本人には)いるが、これは完全に誤りである。

それでも『ダークナイト』ならば、優れたアクションシークエンスが多々あるため、それなりに満足できるだろう。だが、より難解で地味な『ウォッチメン』では厳しいはずだ。

98点
≪本年度屈指の傑作スリラー≫

『[リミット]』が本年度屈指の傑作スリラーであることは、もう様々な媒体で話し、書いてきたが、その真の理由はあえてこれまで書かなかった。当サイトの読者のためにわざわざとっておいた……というのは建前で、文字数&時間制限があるよそ様の媒体では紙面が足りずそこまで語れなかったというのが真相である。何もそんな事までばらす必要はないのだが、つい言わずにはいられない映画界一の善人で正直者の私である。

男(ライアン・レイノルズ)が目覚めるとそこは棺桶の中。ふたの隙間からは土がこぼれてくる。どうやら生き埋めにされてしまったようだ。いったいなぜ? 誰がこんなことを? なんで俺が? 暗闇の中、混乱と恐怖で呼吸困難になりかけた男の手に小さなライターが触れる。手探りで探り当てたのはそれと懐中電灯、そして見知らぬ携帯電話。それだけを手に、男の悲壮なる脱出への挑戦が始まった。

94分間ノンストップ。電話先の声を除けばライアン・レイノルズ以外、基本的にはだれも出てこない。舞台は棺桶の中だけ。ストーリーは男が携帯電話をあちこちにかけるだけ。史上まれにみる、狭苦しい、真っ暗恐怖映画の始まりだ。閉所恐怖症の方は、間違っても本作のチケットを買いに行ってはいけない。10分で帰宅する羽目になる。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  11. 11
  12. 12
  13. 13
  14. 14
  15. 15
  16. 16
  17. 17
  18. 18
  19. 19
  20. 20
  21. 21
  22. 22
  23. 23
  24. 24
  25. 25
  26. 26
  27. 27
  28. 28
  29. 29
  30. 30
  31. 31
  32. 32
  33. 33
  34. 34
  35. 35
  36. 36
  37. 37
  38. 38