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100点
神からの警告

アメリカでこの映画のことを好戦的とか、ヒロイズムを強調しすぎだとか、アメリカ万歳イズムだなどといって批判する人たちがいると聞いて、私は仰天した。いったいどこをどう解釈すれば、そんな真逆の受け取り方をするのだろう。

頑健な肉体と精神、たぐいまれな能力に恵まれたクリス(ブラッドリー・クーパー)は、強者に生まれた責任感と愛郷心から海軍に志願する。やがて特殊部隊ネイビー・シールズ最強の狙撃手となった彼は、イラク戦争の最前線で目覚ましい活躍を見せる。だが、同時にテロリストにとって高額の賞金首となるのだった。

オバマ大統領夫人まで巻き込んだ大議論となっている「アメリカン・スナイパー」をめぐる騒動だが、それも納得のすさまじい完成度である。私に言わせればこの映画は、神が巨匠の作品を借りてアメリカ人に伝えようとしているメッセージ、である。

100点
もっとも有名な妖精、ティンカーベルが4部作に

08年冬のディズニーはアニメーション二本立てだが、先行する『WALL・E/ウォーリー』こそが大本命なのは誰の目にも明らか。こちら『ティンカー・ベル』は、本国アメリカでも小規模にひっそりと公開されたきり。彼らは四部作の壮大なプロジェクトにすると意気込んでいるが、この調子では2以降はビデオのみ、なんてことにもなりかねない。

ネバーランドにある妖精の谷に、元気で明るい妖精が生まれた。やがてティンカー・ベルの名を授かった彼女(声:メイ・ホイットマン)は、手先の器用さから物作りの妖精となる。ところがティンクは、自分らが作ったものを、憧れの人間界に届ける他の妖精たちがうらやましくて仕方がない。やがてとうとう地味な仕事を捨て、彼女らの仲間になろうとするが……。

パート2以降が、たとえディズニー得意のDVD用手抜き続編になろうとも、この一作目は期待できる。なにしろ予算が大作なみに付いているから、妖精たちが飛び回る3D-CGも息を呑む美しさ。出来上がった"春"を人間界に届けるクライマックスからラストシーンに至る一連のシークエンスなどは、ほとんど完璧の一語しか思い浮かばない。

100点
まったく色あせない最高のデートムービー

オードリー・ヘップパーンと、先日なくなったグレゴリー・ペック主演のラブストーリー。ローマ観光産業最大の功労者にして、不滅のデート・ムービーである。最新技術により、当時のクォリティに修復され、公開当時に人々が見たのとほぼ同じものが、今回『デジタル・ニューマスター版』としてリバイバル上映される。

今回の修復作業は、「公開当時のままに」をテーマに進められたもので、これまでのように後から着色したりなどはしていない。ただただフィルムのノイズ等を極限まで取り除き、クリアになった『ローマの休日』は、まさに必見である。

私は、映画館で本作を見るのは初めてなのだが、この修復版は想像以上の素晴らしさだった。今までも、素晴らしい作品だとは思っていたが、この名作がなぜこれほど愛される名作なのか、『当時のまま』に修復された本作を『映画館』で見て、初めてその理由がわかった気がする。

99点
運命に挑戦した男の切ないラブストーリー

アシュトン・カッチャー主演のタイムスリップ系サスペンス。アシュトン・カッチャーは米国ではTVのバラエティ番組等に出演し、アイドル的人気を博す若手俳優だが、日本ではそれほど知名度が高くない。『バタフライ・エフェクト』は非常にシリアスで感動的な物語であるのだが、多くの日本人にとっては主人公役の彼に対する先入観がないであろうから、よりニュートラルに本作を楽しめると思う。そうした点まで含めて判断した高得点である。

主人公(A・カッチャー)は少年時代、記憶が時折ブラックアウトする症状に悩まされていた。成人後はすっかりよくなったかに見えたが、ある日当時の日記を読み返した彼は、失った記憶を突然取り戻した。しかもその恐るべき記憶を、彼はあとから変更する事ができるのだった。

さて、現在もこの主人公は、幼馴染の少女に恋をしている。ところがその女の子とは、よくわからないうちに疎遠になってしまっていた。なぜ理由がわからないかというと、「何か大変なことがあったらしい」肝心な部分の記憶が失われているからだ。

98点
怪物の覚醒

若い映画作家が実体験を元にした映画を作るのは正しい。17歳で脚本を書いた監督作がカンヌ正式出品を果たした天才グザヴィエ・ドランも「自分のわかることだけを撮る」といっている。若者は、無理な背伸びさえしなければそのエネルギーと勢いを空回りさせないで、すごいものを生み出す可能性を常に持っている。

名門音楽学校で、カリスマ教授フレッチャー(J・K・シモンズ)のバンドに参加することに成功したニーマン(マイルズ・テラー)。だが彼は、そこでフレッチャーの恐るべきサディスティックな指導に直面することになる。はたしてそのしごきの先には、ニーマンが望む成功への道があるのだろうか。それ以前に、この異様なスパルタ教育に彼はついていけるのだろうか。

85年生まれのデイミアン・チャゼル監督はまだ30歳だが、とんでもない傑作を叩き出したものだ。ドラマーを目指していた自らの体験をもとに、鬼教師とそれにくらいつく若者の異様な人間関係を、見たこともない緊張感と不穏さでまとめあげた。

98点
≪本年度屈指の傑作スリラー≫

『[リミット]』が本年度屈指の傑作スリラーであることは、もう様々な媒体で話し、書いてきたが、その真の理由はあえてこれまで書かなかった。当サイトの読者のためにわざわざとっておいた……というのは建前で、文字数&時間制限があるよそ様の媒体では紙面が足りずそこまで語れなかったというのが真相である。何もそんな事までばらす必要はないのだが、つい言わずにはいられない映画界一の善人で正直者の私である。

男(ライアン・レイノルズ)が目覚めるとそこは棺桶の中。ふたの隙間からは土がこぼれてくる。どうやら生き埋めにされてしまったようだ。いったいなぜ? 誰がこんなことを? なんで俺が? 暗闇の中、混乱と恐怖で呼吸困難になりかけた男の手に小さなライターが触れる。手探りで探り当てたのはそれと懐中電灯、そして見知らぬ携帯電話。それだけを手に、男の悲壮なる脱出への挑戦が始まった。

94分間ノンストップ。電話先の声を除けばライアン・レイノルズ以外、基本的にはだれも出てこない。舞台は棺桶の中だけ。ストーリーは男が携帯電話をあちこちにかけるだけ。史上まれにみる、狭苦しい、真っ暗恐怖映画の始まりだ。閉所恐怖症の方は、間違っても本作のチケットを買いに行ってはいけない。10分で帰宅する羽目になる。

98点
やや難解だが、おそるべき大傑作

『ウォッチメン』と『ダークナイト』は、まるでライバルのような関係だ。原作のグラフィックノベルは同時代に発行され、実写映画もまたしかり。そしてその出来栄えも両者まったく譲らず、である。

いわゆるアメコミ(アメリカンコミックス)の中には、上記二つのように完全に大人向けの、ほとんど文学と呼ぶべきものがある。よく、単純明快な勧善懲悪アクションもの、ノーテンキなエンタテイメントをアメコミ映画に求める人が(とくにアメコミに詳しくない日本人には)いるが、これは完全に誤りである。

それでも『ダークナイト』ならば、優れたアクションシークエンスが多々あるため、それなりに満足できるだろう。だが、より難解で地味な『ウォッチメン』では厳しいはずだ。

98点
すべての男が見るべき大傑作

2006年の総評でもちらと触れたが、昨年私が見た数百本の映画の中で、もっとも面白かった映画がこれである。痴漢冤罪という、誰にでも実感できる切り口で日本の刑事裁判の抱える問題点を描いた社会派映画。しかしながら堅苦しさはゼロで、娯楽度満点。先が気になる度がきわめて高いストーリーと、へぇ連発のディテール。どこをとっても完璧に限りなく近い、まさしく年度を代表する傑作といえる。

主人公のさえないフリーター(加瀬亮)は、満員電車から降りたとたん女子中学生に手首をつかまれた。駅員室に連れて行かれた彼は、覚えのない痴漢を頑強に否定。すると警察がやってきて留置され、そのまま裁判を闘うことになるのだった。

この映画の上映時間は147分。一見長大に思えるが体感時間はその半分程度、まさに尿意を忘れる一本だ。『Shall We ダンス?』(96年、日)以来の新作となる周防正行監督は、これを作るのに2年間に及ぶ徹底取材を行ったという。ぎっしりと雑学および強い問題提起がつまった2時間半からは、その意欲と成果を十二分に感じられる。とくに、(元ねたとなった本はあるが)明確な原作ものでない映画で、ここまで細部を詳細に描いた作品は近年見たことがない。

97点
10年に1本級のお祭り

2005年から始まった、ハリウッドの大プロジェクト「マーベル・シネマティック・ユニバース」の集大成「アベンジャーズ」は、深読み派、能天気派どちらにとっても紛れもない大傑作であった。

国際平和維持組織シールドが保管する四次元キューブが、邪神ロキ(トム・ヒドルストン)に奪われた。シールド長官ニック(サミュエル・L・ジャクソン)は、この緊急事態にアイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr)を始めとするスーパーヒーローのオールスターチーム「アベンジャーズ」を結集させる

が、集まったヒーローたちはまるで協調性がなく、先が思いやられる状況であった。

97点
≪超絶技巧の傑作、年間ベストワン候補の筆頭≫

かつてイギリスにドリアン・イエーツというボディビルチャンピオンがいた。驚異的なバルクと低頻度高強度の斬新なトレーニング理論を実践したことで、時代を変えたチャンピオンとして今でも大きな尊敬を受ける人物だ。

彼がユニークなのは、ボディビルを始めようと思った時、始める前にまず過去〜現在までのチャンピオンたちの映像やトレーニングメニュー、栄養学などを一通り学んだという点だ。最高のアーティストたちを徹底的に研究して、それらを倒すための具体的計画、グランドデザインをしたあとで入門したのである。ひ弱な体の初心者が、いきなりそんな大志を抱くこと自体が非凡の極みである。

一方、ある歌手は同時代の他のアーティストの作品をなるべく聞かないようにしているという。無意識のうちに影響され、自分の軸がぶれるのを恐れるためだそうだ。感受性が豊かすぎる場合、これも一理あるやり方だ。

97点
≪おバカな内容だが、そう簡単には作れない高い完成度≫

『ナイト&デイ』は、今年のアクション映画の中では突出したできばえで、このジャンルでこの作品を上回るものは、残り3か月もう出てこないだろう。

ボストンへの帰路、ジューン(キャメロン・ディアス)は空港でぶつかったハンサムな男性(トム・クルーズ)に心奪われる。機内でも偶然近くに座った彼と、なんとなくいいムードになった彼女は化粧室で心を落ち着かせる。ところがトイレから戻った時、機内はとんでもないことになっていた。

上記あらすじはほんのさわりだが、このシークエンスの面白さは簡単には語りつくせぬほどで、ぜひとも映画館で堪能いただきたい。キャメロン・ディアスの名コメディエンヌぶり、トム・クルーズの切れ味鋭い動き、それらがアメリカ映画らしいハイテンポな編集で描かれ、まれにみる爆笑&迫力の見せ場となっている。やってる事はとんでもなくおバカだが、それを本気のアクションと最新かつ超一流の演出で見せる。この映画のコンセプトがここに凝縮されている。

97点
≪文句のつけようのない横綱相撲≫

『ヒックとドラゴン』は、いくらほめてもたりないほどの傑作であるが、それは様々な要素が高いレベルで融合された、すなわち完成度の高さによるもの。何かが突出して良いのではなく、すべてがハイクオリティ。まさに死角のない横綱。事件前の朝青龍みたいなものである。

バイキングのリーダーの息子ヒック(声:ジェイ・バルシェル)は、偉大な父とは正反対の貧弱で気弱な少年。大切な家畜を襲う害獣のドラゴン族を狩らねば男とはみなされないこの村では、いつも半人前扱いされている。それが最大のコンプレックスだったヒックは、あるとき大怪我で飛べない最強のドラゴンを発見する。だがやさしいヒックはどうしても止めを刺すことができず、世話をすることによって友情を育んでいくのだった。

ドラゴンとバイキングの終わりなき戦いが続くファンタジー世界観。両者の戦いに終止符を打つのは誰なのか。

97点
歴代バットマン映画最高成績にして最高傑作

『ダークナイト』は、米国ではいまや興行新記録の投売り大セール状態である。その勢いたるや、永遠に破れないと言われた「タイタニック」の不沈神話にも迫る勢いだ。世界の映画史上、間違いなく記録に残る作品となったこの特大話題作は、中身のほうも文句なしの大傑作である。

ゴッサムシティに前代未聞の冷酷な犯罪者ジョーカー(ヒース・レジャー)が現れた。バットマン(クリスチャン・ベイル)とその理解者、ゴードン警部補(ゲイリー・オールドマン)をあざ笑うかのように悪行を繰り返す彼の前に、新任の地方検事ハーベイ・デント(アーロン・エッカート)が立ちふさがる。デントのゆるぎない正義の心と行動力を知ったバットマンは、自らの役目が終わったことを悟り、彼に街の治安をゆだねる決意をする。

スーパーマンやスパイダーマンと違い、バットマンは超能力を持たない。彼はブルース・ウェインというただの人間、資産家で、特注の防御服や装甲車の力で犯罪者をやっつける。誰にも頼まれていないのに、彼は一人自警団として、しょっちゅう大怪我をしながら街の安全を守っている。世界一な親切なおかねもちなのである。

97点
ほかのどんな巨匠にも作れない映画を目指した点が立派だ

この職業をやっていると、毎日各社から膨大な数の試写状が届く。ためしに今手元にあるのを数えてみたら40枚以上あった。非常に残念だが、物理的な時間不足によりそのすべてを見ることは出来ない。やむなくスケジュールに合う中から、何か気になる作品を選ぶことになる。

私が『明日、君がいない』の試写会に行こうと思い立った最大の理由は、この映画の監督ムラーリ・K・タルリは、なんとこの映画を19歳のときに作り始めたという一点にあった。しかも、カンヌ国際映画祭で好評だったという。アカデミー賞よりカンヌの評価に共感する事が多い私としては、どうしてもこの作品を見ておきたかった。

舞台は現代のとある高校。ちなみに本作の原題は「2:37」というもので、これはこの時刻に何かが起こるという意味。そしてそれは、どうやらクラスの誰かが校内で自殺するのだと、冒頭にわかる。そこで一気に時間は戻り、その時刻までの1日をカメラは淡々と追っていくのだ。

96点
今度は世の中を変えられるか?

マイケル・ムーア監督の最新ドキュメンタリー「シッコ」は、期待を上回る物凄い映画であった。

左翼活動家兼ドキュメンタリー作家として社会問題を追い続ける彼の今回のテーマは「アメリカの健康保険制度」。先進国の中で最悪といわれる、悪名高いかの国の制度について、まずはなぜひどいのか、実例を示すところから映画は始まる。

成熟した国民皆保険制度の恩恵を受けている日本人としては、到底信じられないような悲劇が何例も示され、「うわさには聞いていたがここまでひどいのか……」とショックを受ける。

95点
社会派テーマとエンタメをハイレベルに両立

私が東野圭吾の同名原作小説を読み衝撃を受けたのは、もう20年近く前になるだろうか。

先日堤幸彦監督に話を聞いた時、彼は「あの小説が映画化不可能と言われた理由は、内容があまりに原発業界のタブーに触れていたから」というような事をいった。私が20年前に読了したときに感じたことと全く同じ見解であった。

1995年の夏。福井県の高速増殖炉上空に突如現れた自衛隊の大型無人ヘリがホバリングを開始する。残燃料は8時間分。爆弾を満載したヘリが落ちれば原発は破壊され、日本列島は壊滅する。ほどなく犯人は「全原発の即時廃棄」を村山改造内閣へと要求。ヘリに息子が取り残されていることを知った開発者の湯原(江口洋介)は、原発設計士で旧知の三島(本木雅弘)らとともに、対策を検討し始める。

95点
ポール・ウォーカー最高傑作

2013年11月、友人のポルシェに同乗していたポール・ウォーカーは、事故後の炎上により40歳の生涯を閉じた。「ハリケーンアワー」はそんな悲運な彼の遺作のひとつである。厳密には撮影中だった「ワイルドスピード」最新作が、代役を立てて完成させるとのことなのでそちらなのだろうが、全編でずっぱりの一人芝居に近い作品であることを考えたら、ファンならこいつを見逃す手はないだろう。

巨大台風カトリーナの直撃を受けたニューオーリンズの病院に、ノーラン・ヘイズ(ポール・ウォーカー)は妊娠中の妻を連れやってきた。早産の子供は助かったが、妻はそのまま帰らぬ人となった。だが生まれた子供も呼吸器の中にいなければ危ない状況。しかし台風の被害は拡大する一方で、病院内はノーラン父娘を残してみな避難してしまう。呼吸器とその中の娘を運べない以上、彼はここから移動はできない。はたして彼らの運命はどうなるのだろうか。

あまりにありえない設定を成立させるために、あえてカトリーナという実在の台風設定にせざるをえなかったということだろうが、これはうまい。あれほどの混乱の中ならば……との思いにより、これほどのムチャ設定を一瞬で納得させてしまう。この段階でモタモタしていると、ワンシチュエーションスリラーというものは一気に瞬発力を失う。

95点
≪ラスト1秒まで楽しめる日本とローマの友好映画≫

バブル時代は世界中で日本人ほどマナーの悪い国民はいないなどといわれたものだが、最近ではその座を中国人に明け渡し、日本人はむしろ公衆マナーが良いなどといわれている。とくに入浴の場でそれは顕著である。下町の銭湯などには代々受け継がれた暗黙のルールのようなものがあり、はしゃいで場を乱す者は一人もいない。

もっとも最近の若者には、下半身丸出しでお守りを売るラグビー部員などもいるようなので例外はあるが、往々にして日本人は裸のマナーが良い。

そんな、普段は隠れている日本の良さを実感できる映画が「テルマエ・ロマエ」だ。今年のゴールデンウィーク最大の話題作にして、私が最高傑作と考えるこのコメディーは、日本文化を大好きな人はもちろん、最近の政治や行政のていたらくで日本に愛想をつかし始めた人にも見てほしい、愛国的娯楽映画である。

95点
≪天才の誕生過程≫

菅直人首相が浜岡原子力発電所の即時停止を命じたという。電力不足が起きるぞと原子力村民たちが早くも国民を脅し始めているようだが、もとより浜岡原発は点検にかこつけて年間200日とか300日も休んでいるぐうたら原子炉の集まりである。いまさら残る2つを止めたところで電力など不足するはずもない。

この決断には自民党議員の一部が猛反発しているが、これでは首相の思うつぼ。脚本家的な視点から見れば、「自民党イコール原発利権」の印象が国民の間で強まれば、菅政権は労せずして「正義の味方」の役を勝ち取れる。

さらにいうなら、自民との対決色が盛り上がってくれば、菅下ろしの大連立政局をたくらむ党内勢力を黙らせる効果も期待できる。「ワルと手を組む奴は裏切り者」なのである。政治的には一石二鳥の合わせ技で、この一件だけ見ても菅首相はなかなかしぶとい。

95点
≪おもちゃを捨てられなくなるシリーズ3≫

ピクサー製作のアニメーションは、頭ひとつ以上抜き出た脚本力により、もはや10割打者といってもいいほどの傑作率を誇る。その作品群は原作ものではないオリジナルにこだわった企画ばかりだが、中でも「トイ・ストーリー」は記念すべき第一作。社のアイデンティティーといってもいい、スタッフ全員の夢を託した渾身の一本だったわけだ。

この大ヒットからピクサーの快進撃は始まったのだが、その3作目となる本作は、そんなわけで安直な「手堅い続編企画」のはずはない。この2010年に、ピクサーが「トイ・ストーリー3」を送り出した事には、必然ともいうべき理由が必ずある。それを念頭に置きつつこの映画を見終わったとき、私はその予測が正しかったことを感じて深く感動するとともに、このスタジオが当分、名実ともに世界一の座を譲ることがないことを確信した。

かつて、どの少年よりも自分たちおもちゃを愛してくれたアンディ(声:ジョン・モリス)も17歳。一番のお気に入りだったウッディ(声:トム・ハンクス)は、彼がもう自分を手にとってくれなくなった事や、もしかしたら二度と遊んでくれないかもしれない予感を胸に、それでもアンディの事を心から愛していた。かつては最新のトイだったバズ(声:ティム・アレン)たちとは今でも元気にやりとりするが、そんな日々にもついに終止符が打たれるときが来た。大学入学とともにアンディが引っ越すことが決まり、古いおもちゃを処分する事になったのだ。

95点
≪真っ黒な爽快感≫

後世になれば、この映画は松たか子の代表作にして最高傑作と呼ばれることになるかもしれない。現時点(2010年6月)における、私が見た中で本年度ベストといえるこの映画を、本サイトで公開前に紹介できなかった事をたいへん申し訳なく思う。(Web以外の原稿等の締切が、70作品分以上集中する緊急事態でした、すみません)

ある中学校の教師(松たか子)が、終業式のホームルームで不気味な告白を始める。数ヶ月前、自分の幼い娘(芦田愛菜)が校内のプールで溺死した事故は、じつはこのクラスの中の2名による殺人だったというのだ。そんな衝撃の事実を知らされながらも、まるで深刻にうけとめず、好き勝手に騒ぐばかりのこの崩壊学級の少年少女たち。だが教師は少しもひるむ事無く、次に告げた「ある事実」により、全員を凍りつかせてしまう。

開始早々、松たか子のただ事ではない演技に引き込まれる。背中を氷のハンマーでたたかれ、脊髄を麻痺させられるような冷たい衝撃を、観客は(劇中のクラスメートと同時に)味わうことになる。もとよりこの女優の底力を日本最高ランクと認識していた私でさえ、ここまで出来るのかと驚かされた。

95点
アメリカ人のしぶとさを感じさせるアニメーション作品

ベン・スティラーやクリス・ロック、そしてジェイダ・ピンケット=スミス母子(ウィル・スミスとの娘ウィロウ・スミス)など、豪華な声優陣をそろえた話題性で引っ張り、米市場で『マダガスカル2』は記録的なヒットとなった。ところがじっさい見てみると、これが単に宣伝や話題性だけで売れたのではないことがはっきりとわかる。『マダガスカル2』は、前作はもちろん、近年のアニメーション作品の中でも群を抜く傑作である。

ライオンのアレックス(声:ベン・スティラー/玉木宏)ら、NY動物園の元人気者4頭は、飛行機を修理してマダガスカル島から脱出を図った。ところがしょせん機長はペンギン。米大陸まで届くはずもなく、機体はアフリカ本土へ不時着してしまう。

巨大な火山の遠景から、ライオンの父子の手元へとカメラが下りてくる。遠くから近くへ。深い深い奥行きを感じさせるカメラワークで、のっけから「これは!」と思わせる。そこから、物凄いスピードで前作のおさらいをした後、さっさと本編に入る。前作未見者も、半ば強引に物語に引き込む、アメリカ映画らしい親切丁寧なオープニングだ。

95点
全世界が突然失明!?

ここ数ヶ月みた映画の中で、私が最も感動したのはこの『ブラインドネス』であった。カンヌ映画祭で、景気付けのオープニング上映のみならず、本命コンペ部門にも出品されたというだけのことはある。

街のど真ん中で、日本人男性(伊勢谷友介)が運転中の車を急停止させた。彼は、突如として失明してしまったのだ。診断した医師が首をひねる中、世界各地で同様の症状に見舞われる人が続出。この奇病は瞬く間に感染し、政府は患者の緊急強制隔離を敢行する。医師の夫(マーク・ラファロ)が失明した妻(ジュリアン・ムーア)は、夫を支えるため自らも感染したふりをして隔離施設に入所するが、そこはほとんど管理の手が及ばぬ、劣悪な環境だった。

世界中が失明し、人類文明が崩壊していく壮大なスケールのパニック映画。……だが、作品の本質はそこではなく、この寓話的設定が静かに内包するテーマ性の高さにある。

95点
スピルバーグ10年の構想を映画化

『イーグル・アイ』を見終わると、ぐったりと疲れる。アドレナリンだかエンドルフィンだか知らないが、脳内が過剰に活性化されたせいで、この映像体験から開放されたとたん、消費カロリーのあまりの多さに気づく。

コピー店のしがない店員ジェリー(シャイア・ラブーフ )は、突然理解を超えた出来事に巻き込まれる。覚えのない大量の武器や預金。大混乱のさなか、突然かかってきた携帯電話の主は、「30秒後にそこから逃げなさい」と忠告してきた。

ここから怒涛の巻き込まれ型サスペンスが開始される。

95点
80億円以上の予算をかけたコメディ

アメリカではコメディジャンルが人気があると、ここでは何度も書いている。人気があるということは、そのぶん金をかけられるということ。だからあの国では、『ゲット スマート』のようなお笑い映画一本に、なんと80億円以上もつぎ込むという無茶な現象がよく見受けられる。

極秘諜報機関"コントロール"の情報分析官マックス(スティーヴ・カレル)は、優れた分析能力があだとなり、長年の夢である現場の諜報員になれずにいた。ところが本部が犯罪組織"カオス"に襲撃され、全諜報員の顔と名がバレてしまう。そこで身元を知られていないマックスが急遽昇格となり、偶然整形手術直後だったベテラン女エージェント99(アン・ハサウェイ)と組み、カオスに対峙することになった。

大人気だった『007』のパロディとして60年代に作られたテレビシリーズ『それ行けスマート』の映画化。私もオリジナルは見たことがないが、ベテラン評論家のセンセイによると、当時の小ネタがちりばめられ、大変面白かったということだ。キャストはもちろん一新されたが、当時を知る年代の人も、懐かしい思いを味わえるのではないだろうか。

95点
凝った構成と完璧な脚本の政治サスペンス

冒頭、いきなりアメリカ大統領がスペインの大群衆の前で狙撃される。ほぼ同時に大爆発も起こり、集まった人々はパニックに。全力ダッシュで始まり、ペースを落とすことなくそのまま90分間駆け抜ける、大興奮サスペンスアクションの登場だ。

テロ撲滅の国際サミットのため訪れたスペインのサラマンカの広場で、米大統領が何者かに狙撃される。大混乱の中、ベテランシークレットサービス(デニス・クエイド)は居合わせた観光客(フォレスト・ウィッテカー)のビデオカメラやテレビ局の中継車をチェック、そこに驚愕の真実が写っていることに気づき、追跡を開始する。

これぞまさに映画、凝りに凝った構成に感心しきり。

95点
ドロドロした社会問題を、最高に美しい子供向けアニメに仕上げた恐るべき映画

全国公開される大作や、単館系の話題作をちょくちょく見ている、といった程度の映画好きの人に「オススメ教えて」といわれると、私は98年製作のフランスのアニメーション『キリクと魔女』あたりを教えることにしている。そして、たいていの相手から好評を得ている。

『キリクと魔女』は日本でも03年に公開され、このサイトでも絶賛した記憶があるが、『アズールとアスマール』はそれと同じミッシェル・オスロ監督の新作。おのずと期待は高まる。

舞台はとあるヨーロッパの国から始まる。そこで暮らす金持ち領主の子アズール(声:シリル・ムラリ)と、そのアラブ人の乳母ジェナヌ(声:ヒアム・アッバス)。そしてジェナヌの実の子アスマール(声:カリム・ムリバ)。ジェナヌのわけ隔てない愛情のもと、二人の子供は身分や人種を超えた兄弟愛を育んでいた。しかしアズールの父はジェナヌとアスマールを追い出し、二人は海の向こうの故郷の国へ帰ることになった。

95点
空腹時に見て吐きそうになったほど怖い映画だが、きっと満腹時でもヤバいだろう

『ホステル』は久々に味わったすごい映画だ。単純に筋書きが面白いだけでなく、その演出の巧さにも舌を巻く、すばらしい映画作品であった。

欧州をバックパッカーとして貧乏旅行している米国人の大学生コンビは、途中で陽気なアイスランド人と知り合い、3人でオンナ漁りのバカ旅行を楽しんでいた。あるとき彼らは、スロバキアの田舎町に、目くるめくような快楽を得られるホステル(若者向きの安宿)があるという噂を聞く。麻薬とオンナには目のない彼らが早速訪れてみると、そこは予想を越えたキモチイイ異文化があった。

なんとも不気味な、東欧独特の雰囲気の漂うそのホステルにつくと、あいにく相部屋だといわれる。意気消沈して3人が部屋に向かうと、なんとそこには着替え中の巨乳ギャルがおり、ルームメイトだと告げる。しかもこれから混浴温泉に向かうので、一緒にいかが、などと言う。

95点
プロの職人芸に圧倒される、完璧な出来のアクション映画

今週、『トム・ヤム・クン!』があって本当によかったと思う。同日公開だが、同じアクション映画でも『デュエリスト』とはまさに月とすっぽん。アチラでガッカリした人も、これを見れば癒されるはず。もしくは、現在のアクション映画界における最高と最低を、同時に楽しむという、マニアックなやり方もありかもしれない。

主人公は王族に献上する象を育てながら、山で幸せに暮らしている青年。これを『マッハ!!!!!!!!』で全世界を驚愕させた、次世代のアクションスター、トニー・ジャーが演じる。やがて、いよいよ献上する日がやってくるが、手塩にかけて育てた象は、悪者たちの手により騙し取られてしまう。

かくして怒りの追跡劇が始まるというわけだ。監督は『マッハ!!!!!!!!』のプラッチャヤー・ピンゲーオ。前作の儲けをつぎ込んだというだけあって、物凄いアクション映画になっている。やはり今、タイのアクション映画は面白い。

95点
スリリングなサバイバルドラマ

『ホテル・ルワンダ』は、奇妙な経緯をたどった映画作品だ。もともと作品の評価は高かったが、オスカーレースに絡んだため買い付け価格が上昇、日本における人気スターなど皆無の地味な社会派作品だったため、採算が取れないと判断され、日本公開はこれまで実現しなかった。

ところが、インターネットを中心にした公開嘆願の署名運動が行われ、ようやく公開が決まったというわけである。署名規模は数千名と、絶対数自体は少ないものだが、観てもいない映画の公開を求める人がそれだけいるというのは、ある意味すごい事である。そして、この作品が、その人たちの期待を裏切ることは、まずないだろう。良い映画である。

1994年、アフリカのルワンダ。主人公のポール(ドン・チードル)は、この国でもトップクラスのホテルの支配人だ。彼は、妻や子供たちを愛する心やさしい家庭人であり、優秀なホテルマンでもある。奇麗事だけではすまない現実を、しっかりと見据えている彼は、政府軍、反乱軍双方の重要人物に付け届けも欠かさない。

90点
中身はマジメ

江戸中期の仙台藩に、重税に苦しむ人々のため無私の心でつくした名もなき男たちがいた──。「殿、利息でござる!」は、そんな知られざる感動の実話をもとにした歴史映画。興収15億円のヒットを飛ばした「武士の家計簿」の原作者・磯田道史による評伝を、「予告犯」の中村義洋監督が実写化した時代劇だ。

舞台となる宿場町「吉岡宿」は慢性的な不景気で夜逃げが後を絶たず、じわじわと戸数を減らしていた。とりわけ「伝馬」と呼ばれるお上からの課役が住民に重くのしかかり、宿場の衰退に拍車をかけていた。

造り酒屋の穀田屋十三郎と知恵者の菅原屋篤平治は打開策として、大金を藩に貸し付けその利息で伝馬の負担を賄う前代未聞のアイデアを考える。さっそく彼らは基金に必要な1000両を集めるため、出資者を探し始めるが……。

90点
ハリウッド版をすら凌駕する、これぞ2016年の日本にふさわしい新ゴジラ

私は「シン・ゴジラ」が完成した直後、その事をある制作スタッフから聞いた。やがて試写予定についても別会社のスタッフから知らされていた。だが結局、公開までに通常の大々的なマスコミ向け試写会は行われなかった。

あの庵野秀明総監督の事だから、完成といいつつポスプロの沼に嵌ったか、あるいは初号試写を見た宣伝チームが急きょ事前に我々に見せることをやめる判断をしたのか。いずれにしても映画ライターの間ではこういう場合、ろくな結果にならないとの経験則がある。

しかも、たまたま見に行った都心の映画館の入りがきわめて悪かった(上映10分前の段階でなんと私一人)事もあり、不安は増大する一方だったが、なかなかどうして、「シン・ゴジラ」は期待をはるかに上回る大傑作に仕上がっていた。

90点
ネタバレ前に行くしかない

この映画についてだけは公開前にレビューしたかったのだが結果的に叶わず。案の定、ポスターその他の件に言及する人が後を絶たず、申し訳ない限りである。

交通事故を起こしたミシェル(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)が目覚めると、そこは狭い部屋で、彼女はなぜか拘束されている。混乱するミシェルの前に現れたのは大男のハワード(ジョン・グッドマン)。彼は意外にも、事故から助けたのは自分だと主張する。やがてここは地下シェルターで、外の世界で大変なことが起きたために連れてきたなどと、にわかには信じがたい話を始めるのだった。

最初に書くべきことは、この映画はネタバレ厳禁といわれるタイプの映画であるということだ。

90点
WTC誕生の瞬間を描く

ワールド・トレード・センタービルの間を綱渡りした男の実話「ザ・ウォーク」は、単なるいち大道芸人の偉業以上に重要なメッセージを描いている。

1974年、フランス人の大道芸人フィリップ・プティ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)はニューヨークの新しいビル、ワールド・トレード・センターの写真を見て目を奪われる。その二つの建物の間にロープを張り、綱渡りができたら……。だがひらめきのようなその計画を、フィリップは即座に実行に移すのだった。

3D効果をふんだんに生かした超高層ビルの綱渡り。しかしまあ、クライマックス以外は退屈なドラマだろうと思っていたがとんでもなかった。

90点
日本の大女優は見習え

アカデミー賞演技部門の受賞が期待される、ケイト・ブランシェット&ルーニー・マーラの二大演技派女優共演「キャロル」は、日本の大女優さんたちが見たら恥ずかしくなるほどの、迫真の演技を堪能できる傑作恋愛映画である。

1952年のクリスマス、貴婦人然として美しい女性が子供用のプレゼントを選んでいる。夫と離婚調停中で娘との面会もままならないその女性キャロル(ケイト・ブランシェット)は、デパート店員テレーズ(ルーニー・マーラ)に親切にしてもらったのが縁で、友人関係を築いていく。

実績も人気も演技力もあるこの二人ほどの女優が、同性愛をテーマにした映画で堂々と全裸の濡れ場を演じる。CMスポンサーを失いたくない周りが必死で止めるであろう日本の女優界では、まず真似できない芸当である。

90点
ロッキーの後継者あらわる

この映画がロッキーシリーズの正当なる続編であることを知らない人がもしいたら、周囲のファンを大勢誘って映画館に行くべきだ。そうすれば確実に「クリード チャンプを継ぐ男」は、この冬最大の掘り出し物としてお友達ともどもあなたに十分な満足感を与えてくれるに違いない。

レストラン「エイドリアンズ」を細々と経営するロッキー(シルヴェスター・スタローン)の前に、純粋な瞳を持った若者が現れる。アドニス・ジョンソン(マイケル・B・ジョーダン)と名乗ったその黒人青年は彼に問う「アポロ・クリードはどんなチャンピオンだった?」。そして続けてこう言うのだった。「ロッキー、俺にボクシングを教えてくれ──」

本作を前に過去のロッキーシリーズ6本の感動シーンを改めて振り返ってみる。

90点
ブラック起業ムービー

いまどきの時代の特殊性を考慮せず「若い奴はどんどん起業しろ」などという大人はいささか無責任である。そういう人は、説教を垂れる前にまず「ナイトクローラー」を見るべきである。

ルイス(ジェイク・ギレンホール)は窃盗もいとわず暮らしている男。ある日、交通事故の現場に偶然遭遇した彼は、そこでカメラを回す奇妙な男を見つける。その男は事故、事件現場専門のパパラッチであり、興味を持ったルイスは早速自分も見様見真似で開業するのだが……。

エスカレートするテレビ局の視聴率競争、そのためならどんな過激なことをしてもいいのか……的なメディア批判がこの映画の表の顔である。多くの批評家もその点を評価している。

90点
不可能なはずのトリックを完璧に映像化

ミステリの映画化の際、よく「映像化は不可能」なんてコピーがつく。大抵はたわいもない煽りで、実際は大したことのないトリックだったりすることが多いのはいうまでもないが、乾くるみの「イニシエーション・ラブ」だけは別だ。

映画化が決まるずっと前に当サイトのコラム欄で絶賛したあの傑作のメイントリックは、どう考えても映像化は無理。書籍であることをふんだんに利用したアイデアなのだから当然だが、堤幸彦監督は本作で、とんでもない偉業を成し遂げた。文字通り、不可能を可能にしてしまったのである。

大学生の鈴木夕樹(松田翔太)は人数合わせに誘われたアウェー感たっぷりの合コンで、歯科助手のマユ(前田敦子)に一目ぼれする。小太りでオタク然とした風貌の夕樹だったが、その誠実な性格がよかったのか信じがたいことにマユの受けは決して悪くなかった。彼の人生はその日からばら色に輝くが、彼が真の恋愛の奥深さを知るのはさらに先になる……。

90点
老監督の凄みをみた

最近のウディアレンの映画というと、皮肉の効いた大人向けラブコメまたは器用なミステリ、といったイメージが強い。毎年1本ずつ発表し続けているが、たしかに上手いとはおもうが正直、ぬるめの作品続きで欲求不満なファンも多かったのではないか。

ニューヨークで富豪の夫と別れ、サンフランシスコの妹の家に居候にきたジャスミン(ケイト・ブランシェット)。だが彼女は異様なプライドの高さから現実を見ることができず、質素な暮らしや就職活動に耐えられない。再び玉の輿に乗り、セレブ生活に戻れると信じて疑わないジャスミンがつく「嘘」は、次第にエスカレートして……。

さて、そんなアレン作品だがこの「ブルージャスミン」は違った。こんなに強烈な才気が78歳のアレンに残されていたとは、うれしい驚きである。本作は、近年のウディ・アレンコメディに欲求不満だった人、そもそもアレン映画とはそういうものだと思いこんでいる人に是非見てほしい、切れ味鋭い人間ドラマの傑作である。

90点
全部ガチならとんでもない映画

園子温監督の映画に「地獄でなぜ悪い」(13年)というのがある。本物のやくざの抗争と殺し合いを、映画の見せ場として撮影する映画オタクの話だ。もちろんフィクションのコメディー映画だが、斬新な作風が好評を得た。

ところが世の中は広い。アメリカには、なんとそれを地で行く映画監督がいた。

1965年、9月30日事件と呼ばれる大虐殺がインドネシアで起きた。ときのスカルノ政権に対するクーデター未遂のどさくさの中、大勢の共産主義者らが殺されたこの事件。その実行犯を取材したジョシュア・オッペンハイマー監督は、自分たちを革命の英雄と思い込んでいる彼らに対し、それなら自らのしたことを再現し、映画に記録してはどうかと提案する。

90点
すべてを圧倒する昭和天皇

参院選で自民党が圧勝し、改憲論議さえ巻き起こっている昨今。GHQの影響濃い現憲法を改正することは、米国による支配からのっ、卒業ぉ……。というわけだが、そんな懐かしのヒットソングのように上手くいくはずがないとは思うものの、それにしても終戦直後のGHQはいったい占領地の日本で何をしていたのか。とくに天皇に対してどのような影響力を発揮したのか、そこに特化して描いた「終戦のエンペラー」は、なかなかユニークな戦争映画といえる。

1945年8月、占領地である日本にやってきたダグラス・マッカーサー(トミー・リー・ジョーンズ)は部下で知日派のフェラーズ准将(マシュー・フォックス)に特命を与えた。それは10日間以内に、日本国内の戦争責任者が誰なのか、具体的には天皇にその責任があるのかないのかを調査し結論を出せというものだった。フェラーズはかつての恋人アヤ(初音映莉子)の行方も調べられる好機と引き受けたものの、日本の複雑な権力構造と、宗教的ともいえる天皇への国民感情への理解の困難から、調査は難航を極めるのだった。

この映画のキモはクライマックスのマッカーサーと天皇の対面シーンにある。それまでは日本の高官やら何やらの、言い訳じみた御説のハギレを並べるばかりで、正直退屈すら感じる。天皇に責任があるという人たちの言葉は何一つ心に響かないし、逆に天皇擁護派のそれもしかり。意外性のある史実の発掘もなく、このまま映画は終わるのかと思わせた。

90点
独創性がある

世間一般には疑問符が付くようなタイプの人間でも意外とモテたりする。気が多い女の子とか、金遣いの荒い男とか、第三者からみればクズのような性格でも「普通」に飽いてる者にとっては適度な刺激になるためだ。適材適所、捨てる神あれば拾う神ありだ。

「キャビン」は、どこからみても異形な映画。変化球のみで構成されたトンデモ作だが、だからこそ「普通」に飽きてる人には最高の刺激となる。その魅力は、あらゆるホラー映画を見てきた人でも、絶対に先読みできないハチャメチャな展開。しかしナンセンス系ではなく破綻なく世界観をまとめている「定石外し系」の傑作である。

森の中の小屋にやってきたデイナ(クリステン・コノリー)たち大学生の男女5人。人里離れたこの場所で、胸躍る休日を過ごす予定だったが、この小屋は何かがおかしい。隣の部屋を覗けるマジックミラーがあったり、古い地下室があったり。やがて彼らは、不安を抱えながらも初めての夜を迎える。

90点
芦田愛菜の存在意義だけが不明だが

この2作目の脚本も前作同様、プロット自体をハリウッドに売ることもできそうなほどに完成度が高い。登場人物を入れ替えればライアーゲームのタイトルを外しても通用する点も前作譲り。それどころか緻密に計算された脚本のうまみは、前作を上回る部分さえある。具体的には椅子取りゲームという、原作ファンにはおなじみのネタを採用していながらも、あえて2012年に公開するべき理由付けがなされている点。さらに普遍的でありながら、じつに日本的な結末を用意している点も心憎い。

ファイナルステージから2年、秋山(松田翔太)は大学で心理学を教えていた。そこに教え子の篠宮(多部未華子)から、札束とともに不気味なゲームの招待状が来た件で相談を受ける。終わったはずのライアーゲーム、いったい誰が再開したのか。秋山は再び弱き者を守るため、ゲームに参加する羽目になるのだった。

今回採用されるゲームは椅子取りゲーム。多少複雑な決め事はあるが、たかが椅子取りゲームで、よくぞここまで高度な騙しあいと戦略を考えたものだと、脚本家及び原作者の脳みそにはただただ感服する。

90点
資本主義の諸問題を皮肉る秀作

日本でSF映画というと子供向けのイメージがあるが、海外には大人の鑑賞に堪えるものがたくさんある。「TIME/タイム」はその最たるもので、その出来はすこぶる良い。おそらくあらすじを聞いただけでほとんどの人が見てみたい、となるのではないだろうか。私の周りでも、普段はこうしたジャンルに興味を示さない編集者が、ストーリーを説明した途端見てみたいと即答したり、じっさい普段はこの手のジャンルを取り扱わない媒体で紹介したりもしている。

寿命をコントロールできるようになった近未来。人類は遺伝子操作により25歳で成長がストップし、そこから等しく1年間の寿命が与えられるようになっている。その結果、通貨としての金銭は無くなり、代わりに人々は「余命」をやり取りして経済活動を行っていた。スラム地区に住むウィル(ジャスティン・ティンバーレイク)は、目覚めると常に余命残り24時間を切っているほどの「貧困者=時間無し」だが、困っている人を見ると惜しげなく余命を分け与える優しい男。そんな彼が、あるとき自殺志願の大富豪から100年単位の余命を譲り受けた事から、運命の歯車が大きく変わり始める。

世界感や設定を聞いただけで楽しそうと思える作品は、間違いなくいい企画である。ただし、そうした企画に十分な予算がつき、一流の人員を割くことができる国はそう多くはない。アメリカの映画業界は、そうした真っ当なことをやっているからこそ、世界一でいられるのである。「TIME/タイム」のような映画を見るたびにそう思う。

90点
≪もはやアメリカ人の未来は真っ暗だと証明した≫

『4デイズ』も震災延期組のひとつで、私がこれを見たのは3月初旬の震災直前だった。そんな時期的なイメージに加えて作品としてのインパクトが甚大で、個人的には延期組の中ではナンバーワン作品と思っている。

米国内3か所に自作の核爆弾を仕掛けたテロリスト(マイケル・シーン)が逮捕された。タイムリミットが迫る中、当局は拷問のプロフェッショナル=通称"H"(サミュエル・L・ジャクソン)を呼び寄せ、密室内で手段を問わぬ尋問をすることにした。同席したFBI捜査官(キャリー=アン・モス)は法を守る立場からこの人権無視のやり方に抗議するが、かといって代案はない。とどまることを知らぬ残虐な"H"のやり方を制御するのが精いっぱいであった。だが、そもそもなぜこれほど有能な犯人が、たやすく逮捕されたのだろうか……。

スケールは大きいが登場人物は主に3人。舞台はアメリカ政府御用達の拷問部屋。スペクタクルもあるにはあるが、基本的には低予算のサスペンスドラマだ。しかしチープさは全く感じさせない。容赦ない残酷性とその描写により、予定調和なハッピーエンド以外もありうる空気を漂わせており、先が読めない怖さを存分に味わえる。

90点
時代にマッチしている上、脚本の骨格がきわめて頑健

たぶんこの映画についてほとんどの方は、こんな風に考えているだろう。

「え、日本映画? 安っぽそう」「え、フジテレビの映画? 軽そう」「え、テレビドラマの映画化? 映画だけ見てもわかんなそう」「とにかく、つまんなそう」

その気持ちはわからぬでもないが、なんと本作に限ってはすべてよい意味で裏切られた。こういうことはめったにあるものではない。

90点
全日本人がみるべき作品

『海角七号/君想う、国境の南』という映画を考えるときもっとも重要なポイントは、「この映画が台湾で爆発的にヒットした」(同国映画としては史上一位)という事実である。

ミュージシャンの夢破れ、故郷に戻ってきた青年(ファン・イーチェン)は、郵便配達のバイト中、あて先人不明郵便を発見する。それは日本統治時代の住所表記あてに送られた60年前の郵便だった。そんなある日、地元で行われる日本人歌手のコンサートの前座を頼まれた彼は、その仕事の中で知り合った日本人女性(田中千絵)にその手紙を見せる機会を得る。そして、その手紙に大切な内容が書かれていることを知る。

半ニート若者を主人公にしたユーモラスな下町人情ドラマ風に始まる本作は、まともなギタリストさえいない田舎町の急造バンドのどたばた騒動でまずは楽しませる。

90点
ぜひ小さい息子さんとご一緒に

手塚治虫の代表作で、日本アニメの元祖的存在「鉄腕アトム」は、意外だがこれが初の劇場版となる。製作したのは香港発のアニメ制作会社「イマジスタジオ」。そこにハリウッドスターが声を当て、米国では300スクリーン越えの大規模公開、その他50カ国以上で上映が予定されている。日本原産のコンテンツとしては、大本命といってよい話題作である。

未来都市メトロシティの科学省長官で天才的科学者のテンマ博士(声:ニコラス・ケイジ、役所広司)は、幼い息子のDNA情報を埋め込んだ最新鋭ロボット、トビー(声:フレディ・ハイモア、上戸彩)を作り上げるが……。

オリジナルの66年版アニメーションはもちろん、80年のリメイク版を楽しんだ世代でさえ、今はとっくに"父親"になっていることだろう。そうした事情を受けてかこの映画版は「父と子の関係、息子への愛」に焦点を当てた、感動ドラマとなっている。

90点
今年ナンバーワンのショッキング映画

ナチスものというのは、私を含め多くの日本人が、ほとんど興味をもてないテーマだろうと思う。ユダヤ人優位のアメリカ映画界では永遠の定番テーマだが、それに私たちが付き合う必要はまったくない。だから本作に対しても、相当冷めた目で見始めたことを最初にお伝えしておく。

第二次大戦下のベルリン、8歳の少年ブルーノ(エイサ・バターフィールド)の父親はナチス将校。その転属に伴う引越し先は、片田舎の森の中だった。そこにはフェンスに囲まれた「農場」があり、大勢の大人が働いている。ある日、ブルーノはこっそり近づいた塀の向こうに、同じくらいの歳の子供を発見する。顔色が悪く、がりがりにやせた少年はシュムエル(ジャック・スキャンロン)と名乗った。塀の中の他の大人たちと同じ「縞模様のパジャマ」を着ている彼との奇妙な交流が、その日を境に始まった。

これを見終わったとき、私は大きな認識違いをしていたことに気づかされた。これは古びた「ナチス映画」などではなかった。きわめて普遍的なテーマを持つ、現代的な映画であった。ショックを受けたという意味では、今年始まって以来ダントツのナンバーワンといっても過言ではない。

90点
2009年夏のイチオシ

今年2009年の夏シーズン、忙しい中、たった1本だけ映画を見られるとするなら、私は迷わず『アマルフィ 女神の報酬』を選ぶ。夏休みらしいスケールの大きな大作であること、邦画の枠内でなく、世界標準からみても優れたサスペンス映画であることが理由だ。

と同時に、このような意欲作がコケることになったら、もはやマジメに日本でエンタテイメントをやろうという人はいなくなってしまうのでは、と危惧する。人気テレビドラマをチョチョイと2時間に引き伸ばし、洗脳のごとき繰り返し宣伝で純情な視聴者を映画館に集め、1800円を搾り取るビジネスモデルが通用するようでは、あまりにクリエイターたちが可哀相だ。

クリスマス直前のローマに派遣された外交官・黒田(織田裕二)は、偶然にもある旅行者(天海祐希)の娘が誘拐される事件に遭遇する。とっさの機転で犯人からの電話を黒田が処理したことにより、彼も巻き込まれ、事件解決のため奔走することに。だが外交官には捜査権がなく、徐々に黒田は孤立していく。

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